星の旅人たち

movie_kid2012-06-17


70年代、マーティン・シーンは、地獄への旅の末に暗殺を実行するソルジャーを演じた。そして、初老を迎え今度はキリスト教3大聖地スペイン、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の旅によって、人生にあらためて向き合う旅人を演じたのだ。この映画によってマーティン・シーンは、どこか拭いされなかった血なまぐささから完全に脱却し、数多くの映画のキャリヤに集大成的な深い意味合いを加えた。
マーティン・シーンの実の息子、エミリオ・エステヴェス監督によって脚本が書かれ、自分の父親を主演に、自らもまた死んだ息子を演じ、この映画を自分の祖父に捧げた。
こじんまりしたファミリー映画のようだが、突き抜けた清々しい気持ちよさを感じた。
疎遠になっていた息子の事故死の一報を聞き、アメリカからはるばるフランス、ピレネー山脈のふもと巡礼の街にやってきた。遺品に受け取ったのが、巡礼に向かう息子のバックパックの装備だった。息子の死を受け入れるため、息子の意志を受け継ぐがごとく、遺灰とともに800キロにおよぶ巡礼の道を歩きはじめるのだった。
歩く事で、聖人に近づけるとか、救いが受けられるとか、何か神々しいミラクルに出来事に遭う訳でなく、自分と向かい合いひたすらに、または、のんびりと各人各様の想いを胸に年間1000万人を上回る巡礼者が一歩一歩、聖地のゴールを目指して歩く。
世界中からキリスト教信仰の深い人もそうでない人もやって来る中で、息子の死と一緒に、怒ったように歩き続けるマーティン・シーンが、じぃーんと染みてくる。旅は道連れの、いつのまにか何となく仲間ができて心通わせるのも、旅を経験したものであればすんなり共感できる。
苦しくても、悲しくても、人を等身大に捉えて、大地に佇む姿を情感を抑えさらりと一陣の心地よい風のようないい映画だった。