大阪湾産、イワシの塩焼き

在住の荒川区ハローワークが、隣の足立区と合併されていた。
職探しするのに、電車に乗って北千住に行くことになる。『大はし』があるこの街にも、ずいぶん通い慣れた感がある。
それはそれで、切り離して考えれば良いことだが、どうせ電車賃を使うのだからと思うのが人情ではないだろうか。
決して職探しをおろそかにしたわけでないけれど、自分に許しているルールから金曜日の午後にハローワーク足立に行き、求人検索に没頭した後は『大はし』で、週末の一杯を飲むことにした。仕事をしていない者が、週末もないだろうと言われそうだが、自分なりに規律をもって一週間の日々を送っているのだ。

↑ちょうど仕事帰りの人達で混み始める19時過ぎた頃に飲み終わり、ほろ酔いのいい気分で『大はし』の外に出てみると、人がずいぶん並んでいた。これは、随分待たされるだろうなと思い、お先に申し訳ないという気持ちがチョッピリして来る。
思えば『大はし』で、飲み通い始めて(途中、ブランクも1年ほどあったが)20年を越えている。その時々、色々な気分で飲んできたものだが、ハローワークから、直接店に歩いて飲みにくることなど考えもしなかったと、複雑な思いも湧いてくる。
しかし、サッと出てきた肉豆腐と金宮焼酎を飲み始めれば、たいして違いはないのかもしれない。変わっていないといえば、親父さんの接客は歳を重ねたというより、より技に磨きをかけてきたという感じがする。
「今日のイワシは、ちょっと違いますよ」
親父さんに言われ、壁に貼ったメニューの短冊を見ると『大阪湾産 いわし塩焼き』と、達筆の墨文字で書かれていた。早速、注文してみる。
関西生まれの自分にとって、名産千葉で捕れた真イワシの塩焼きを食べると、関東の居酒屋で飲んでいるのだなと感慨深いもの。出身の和歌山でよく食べていたのは、種類が違う小さな細身のセグロイワシだった。酢じめや梅干しと一緒に煮たものは美味しいのだが、大羽の真イワシとは味わいが違うのだ。
「ほいっさぁー」と、焼けたイワシが出てきた。
サイズから見ても真イワシで、大きめ小さめの2本が皿にのり、プチプチと旨そうに音を立てていた。大きさの割には、見慣れた真イワシよりは、頭が少し細身に感じた。ただ、胴は丸々と太く、箸を入れると驚くほどに脂が乗っていた。親父さんに、美味しいですと言うと、そうだろうとばかりに顔がパッと華やいだ。
後日、ネットで調べてみると大阪湾産のイワシでヒットしたのが、魚屋さんのブログだった。もちろん、質のいい大阪湾で捕れたイワシの良さを紹介していた。
このところの台風の影響で、太平洋側での漁が不振のため、普段なかなか出てこないものが東京にも流通してきたのかもしれない。こんないい真イワシが、大阪湾で捕れるとは知らなかったが、あまり固定観念を持つのも今の時代、取り残されてしまうことになるのかもしれない。
さすがは『大はし』と、絶賛しつつ、職探しをしながら固定観念の塊の自分を反省するのだった。(8月26日飲)