名匠・成瀬巳喜男〜庶民の哀歓を描き続けた②

『妻の心』監督:成瀬巳喜男
『あらくれ』監督:成瀬巳喜男

2本共に高峰秀子主演で『妻の心』は、優柔不断な夫にあれこれ不満の持つ、ごく普通の妻の心情を『あらくれ』では、大正の時代、経済状況も厳しく貧しく、特に女にとっては辛い世の中であっても、たくましく奔放な女性を生き生きと力強く演じていた。前回観た『浮雲』も含め、その作品ごとの違った役柄を見事に演じきる高峰秀子の姿に、画面から目が離せなくなった。
平成の今となっては、大正時代といっても明治、江戸時代と同様すでに遠い過去のこと。青年時代に戦争を生き抜いてきた成瀬監督の世代にとっては、自分の出発点であり根底から覆された戦争前のかつての日本人が生きていた日本の姿に、とても愛情を深く描いているなと感心した。同時に、こんなリアルな大正時代を映画で見たことがなかった。
高峰秀子が言葉や行動が荒っぽかったとしても、内から溢れんばかりの女のたくましさと気だての良さを際立たせ、女の魅力に溢れていた。黒沢映画に洗礼を受けてきた活劇映画ファンにとっては、同時代、同東宝の顔を見知った凛々しい侍を演じた役者達が、下心丸出しの下衆な役柄で登場するので驚き、そして落胆する。
『7人の侍』のイメージが汚れたように感じてしまうのは仕方がないところか。言い掛かりのような文句だが、女から見た男が、余りにも情けないと見せつけられたようだ。そんな男となかなか離れなれない女の性を描いているところが、男と女の不思議と成瀬監督の映画は語っていた。