生きつづけるロマンポルノ②

「赤線・玉ノ井 ぬけられます」監督:神代辰代
「宇野鴻一郎の浮気日記」監督:白井伸明

とにかく、観てみようとロマンポルノ特集上映で2本観たけれど、それほどのものでなかった。17年間の間に1,100本も製作されその中から厳選された33本なのだから監督によってもかなり違いがあるだろう。ここでこのまま観なくなるのも、もったいないかなと思っていたら仕事の切れ目で時間ができた。
もうちょっとだけと、まさにスケベ心丸出しで観ることにした。
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神代辰代監督の「赤線・玉ノ井 ぬけられます」が、よかった。
この映画だけで、この特集上映に来た甲斐があった。これこそ、70年代に撮られた日本映画のパワフルさを凝縮していた。舞台は、昭和30年代で江戸時代からの赤線の文化も終わりを告げるあたりの女たちを生き生きと描いていた。それは、特殊な世界のことでなく庶民の暮らしの延長である、飲み屋街などと隣り合わせの場所といってもよいだろう。
陽の当たる表街道ではないが、多かれ少なかれ誰しもどぶの臭いのする清潔とはいえない長屋で暮らしていたのもこの時代だし、映画が撮られた70年代も世の中はそんなに潤ってはいなかったろう。
昭和へのノスタルジー左岸良平の漫画を映画化した『ALWAYS 三丁目の夕日』は、人気のシリーズ化したそうだが、この作品とは表現する深みも闇の暗さも比較できないくらいの違いを感じつつ、神代辰代監督は、滝田ゆうのイラストを要所の場面展開の合間にはさみ、しっとりとした時代の空気とひりりとした悲哀をも感じさせてくれる。
役者が歌う何気ない歌や美空ひばりや三橋三智也、森進一など実力の演歌歌手の歌も底支えする昭和の風景が沁み渡る。からだをはった女優陣の体当たりの演技に目が離せなくなり、蟹江敬三が演じるひも役の強面で横柄で、どうしようもなくやくざな情けなさも秀逸だつた。殿山泰司の赤線宿のおやじがちょっと出て来るだけで存在感抜群で見所もたっぷりだった。
神代辰代監督の映画を、いま再び映画館でそれもニュープリントで楽しめたのは日本の映画ファンの喜びだ。
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宇野鴻一郎の〜と、原作者の冠が付くお気楽な1本は、バブル絶頂前の当時があまりに今とは違い、お気楽すぎて困ってしまった。おやじの願望、妄想そのもののようなピンク映画もロマンポルノの典型の一つなのかもしれないが、今にとっては、やれやれと感じてしまう。