旅芸人の記録

movie_kid2012-03-17


1975年製作されたこの作品は、カンヌ映画祭の大賞や数々の賞をとったことで世界的に認められた。画面がスタンダード(真四角に見えてしまう)で、上映時間が4時間にもおよぶとなれば今時から考えれば規格外だろう。
内容は、世界大戦中のドイツ軍やイタリア軍の占領下、そして、戦後イギリス救援軍も入り世界の大国に何度も何度もギリシャの地が踏みにじられてゆき、あげくは左右派の内戦と戦時下のレジスタンスから革命解放を唱えながらゲリラ活動と政府の弾圧のはびこる泥沼のような世情に陥る。そんな中で暮らす人々の苦しみを象徴するかのように、古い“田園劇”ひと演目だけの一座が旅を続ける、10余年にもおよぶ姿を追う。
曇天で暗くよりのない画面の構成で、登場人物の顔すら判別しづらい映画のはじめあたりで、聞き慣れないギリシャ語で名前さえ聞きとれず、イライラしてしまった。引きつけるどころか、集中すらできなくなったあたりで、はたと気がついた。この映画は、国家という大きい単位での悲劇を一座に投影しているのだから個々により過ぎない、一歩引いたまなざしの映像で映画が撮られているのだなと理解できた。それからは、構えることなくすんなりと映画を観続けることができ、逆に画面に釘付けになっていった。
ギリシャの国土に降り注ぐ苦難に、一座が立ちすくむ姿が映し出されて声にならない人々の叫びと哀しみが滲み出ていた。ヨーロッパの小国の苦しみ、嘆きの映画に、とても同じ思いだと言えるべくもないが長い旅路の果てにより添った感覚が残った。監督自身が、当時、映画さながらの政治情勢の中でこの映画製作に苦難を受けながら、ぶれない精神と意志の映画としてまとめあげた素晴らしさに感嘆した。