緊急追悼上映 巨匠 テオ・アンゲロプロス 池袋・新文芸座

映画の朝一番上映時間の1時間以上前に劇場に行くには早すぎると思っていたが、間違っていた。名画座の底力を忘れていた。パチンコ・ビルの3階にある池袋・新文芸座に行ってみると、雨の土曜日にもかかわらず、開場されていない入り口から階段にかけて列ができていたのだ。
1月も終わり頃、新作の撮影中の交通事故で、テオ・アンゲロプロス監督の訃報を新聞で知って思わず、特別上映を映画関係者にお願いしたいとこのブログでもつぶやいた。池袋・新文芸座が1週間、緊急追悼上映をすると知った時は、もう、その週に入っていた。行けない悔しさ以上に、さすがは文芸座だ、映画ファンの聖地と声を大にして言っていい映画館だ。
土曜日なら行けるので、初期の大作『旅芸人の記録』観ることにした。手元に残っていたロードショー当時のプログラムを引っ張り出したら、奥付に1979年となっていた。自分が上京してやっと映画を観始めた頃で、誰か映画好きの先輩に勧められて観たのだと思うが、理解できなかったのだろうか記憶に残っていなかった。とにかく、4時間にもなる上映時間にひるんでしまうが、ここは、行かねばならない。観るとなれば良い席で観たいので、1時間前に行ったらもうすでに列ができていて映画ファンというものは、やっぱりいるのだなと感心した。
旅芸人の記録』は、本日だけの2回上映のため完全満席の1回目と帰りに映画館を出る時、2回目の上映に並ぶ列が3フロア下の出口にまで達していた。しきりに係員が、すでにお席の方はお約束できませんと声をからしていた。他の名画座早稲田松竹』でも、5月に『旅芸人の記録』などテオ・アンゲロプロス監督の3作品を観ることができる。
上映されたものが、ニュープリントでないのがあたりまえだが、フィルムの傷のスジや埃がたまって銀幕の角に影ができたり、フィルム上映をあらためて思い出した。気がつくと、昨年あたりからシネコンや大きな映画館の新作上映のほとんどが、デジタル上映に変わって来ている。映画製作の観点からもコストや性能面でデジタル化は必然だし、画像はシャープで綺麗だし劣化も無く観ることもできるが、もうフィルムで映画が撮られないとなると複雑な気持ちになる。
テオ・アンゲロプロス監督の映画も全集の形でDVDのBOX販売はされていながら、やっぱり追悼上映となるとたくさんの人が劇場に足を運ぶ。劇場で観る映画のよさの中には、画像を焼き込まれたフイルムに光をあて、劇場の空間を抜け銀幕に映し出される構造とその空気感なども捨てきれないと思う。寂しいことではあるが、現実にはなくなって行くのだろう。

今回の追悼上映された10作品のうち半分の5作品しか観ていない。良いチャンスを逃してしまった。