エッセンシャル・キリング

movie_kid2011-10-01


ひたすらに生きたい、逃げ延びたいとアフガンの戦場でアメリカ兵に拘束された兵士の脱出劇だが、通常の戦争映画とはかなり違っていた。移送の段階で事故があり、雪に閉ざされた原野の中に放り出される。しかし、追っ手から逃げる兵士について、全く何の説明もされないし、逃げ続ける厳しい原野がどの国かもわからない。兵士は、アラブであるらしき自宅で待つ、女性の元へ戻ることだけ思い描きながら逃げ続ける。
そんな中でくっきりと見えてくるのが、生存への強い執着があると人は、野生の様相を帯びてくること。極寒の地で負傷と疲労と飢餓状態になりながら、逃げ延びようともがき苦しみ、徐々に森に溶け込んでゆく。敵であろうが、なかろうが、立ちふさがる人間に対して何の躊躇もなく殺すことのできる目は、おびえていながら底知れぬ透明な印象を持った。それこそ、タイトルにつながるところだろうか。
逃亡する兵士の、ヴィンセント・ギャロが素晴らしかった。過酷な撮影条件の中で全身全霊でフィルムに焼き付けた演技に対して、観客を感情移入させずに拒絶する演出に、イエジー・スコリモフクキ監督らしさを感じた。
監督の前作「アンナと過ごした4日間」とは、まったくタイプの違う映画のようで、主人公の寡黙さが同じ様に重なってきて、必死にもがけばもがくほど映画は、突き放した距離の持ち続ける。決して鋭いまなざしを緩めない監督の作家性に、強く惹かれた。