96時間

movie_kid2009-09-05

主演のリーアム・ニーソンは、ご存知ジェダイ・マスターだ。
もちろん、スター・ウォーズの役の中でだが、彼はずいぶんいろんな役を演じて来た。その中でも印象深いのが『ダークマン』で、優秀な科学者が火傷で顔面の皮膚をなくしたが、研究成果の人工皮膚や治療途中で得た特殊な能力で、陥れた奴らに復讐を遂げるストーリー。外見の変化とともに内面をも変貌させてしまった男の悲しみを、あの彫りの深いつぶらな瞳で表現していた。
今回は、年齢も重ねかつてアメリカ政府の工作員らしき任務に就きながらも早々に現役を引退し、離婚した妻と共に暮らす娘を影ながら静かに見守る父親役。そのディテールが、きっちりとテンポ良く描かれている。娘への誕生日プレゼントを自ら折り目正しくラッピングしている所でこの男の性格やらを出しつつ、対照的に離婚した妻の再婚相手がとびっきりの乗馬をその娘にプレゼントして経済的な格差を比べられ、実父の影が薄い。昔の仲間に誘われてシークレットサービスのバイトに出て、その実力のほどは少しは匂わせるものの娘に弱いパパの印象が情けないんだな。
娘がヨーロッパ旅行に出かけ、誘拐にあってからもうそれは怒濤の勢いで、牙を剥き出した狼のごとく、犯人へ突進してゆく。かの地、パリでの今時の犯罪現状など製作リュック・ベッソンのお膝元で、胸苦しくなるほどに薬物と人身売買の悲惨さもリアリティー満点。娘を助け出そうと能力全開の父親に観客をも巻き込んで振り回すほどに、この男の隠れていた心の中のレイヤーが一つ一つ浮き上がって来て、狂気までも感じさせる色が浮かんでくる。娘にとって救世主ではあるものの、もはや彼をヒーローと呼べるものではなく、闘争に集約してゆく男の本能的な狂気とも見えてくる。本当の見るべき映画の軸はここにあるのだが、それではエンターテイメントにはならない。一昔前なら、再び現れてしまったこの狂気に男は苦しみ、それをにおわせたり余韻にするのだが、今は時代が違うのだなと感じた。アクション一辺倒ではない、リーアム・ニーソンだけに、そんな心の悲しみを最後に一瞬でもいいから観たかったのだが。