セントアンナの奇跡

movie_kid2009-08-09

スパイクリー監督が、初めて戦争映画を撮った。黒人の視点を徹底的に追求して来た監督だけに、期待を裏切らないばかりかそれ以上だった。
この監督らしくニューヨークから始まった殺人事件から、時代は第二次大戦、イタリアのドイツ軍によるセントアンナの大虐殺前後の激しい戦闘の中へ。バッファロー・ソルジャーと言われた、アメリカ黒人だけによる部隊が中心に描かれている。考えてみると、世界大戦時代などの古い時代の戦争映画には黒人兵士がほとんど登場してなかったように思う。意図して描かれて来なかったようで、戦争の非常時だからこそより強烈に同じ自国の兵士でありながら差別されて、一番に危険な最前線に送り出されたのが容易にわかりそれを覆い隠すためだったのかもしれない。
虐殺から逃げ延びた子供を助ける事で、最前線から生き延びたバッファロー・ソルジャーの4人は安易には引き返せないほどのドイツ軍包囲網の中に入ってしまう。眠る巨人伝説の残るイタリア、セントアンナの小さな村で皮肉な事に自国では強烈に差別されていたアメリカ黒人兵士が、村人にドイツ軍から助けてくれる力強い助っ人だと受け入れられ、初めて人間扱いを受けて感激するなど痛々しくも悲しくなる。
戦争の本質は、狂った人間のなせる業でしかなく地域や国同士や人種による対立では決してないと黒人目線からやすやすと飛び越えて大きな眼差しに行き着く。戦争映画は、アクション一辺倒のものもあるが、基本的に重く悲しみに満ちていて決して楽しい映画ではない。でも、そこには人間の犯した罪はもとより人間の情愛も正義も含まれた、深い物語が描かれている。監督の考え方も意見も色濃く反映していればいるほどに、いろんなたくさんの監督の戦争映画を観るべきだなと今回、強く思った。
奇跡の先に、神の存在すら感じさせるスパイクリー監督の意図は、信仰を持たない者にとってもその存在を考える切っ掛けになる。映画は見せるだけのものではない、感じて、考えさせる映画は、素晴らしい。