扉をたたく人

movie_kid2009-08-01

扉をたたく人、太鼓をたたく人、心をたたく映画・・・
久しぶりに、日本語タイトルに誘われた。予告編でも地味な印象しかなかったが、どこかをたたかれて反応したのだろう、観る事にした。
主人公は、妻に先立たれ仕事にも意欲をなくした初老の大学教授。この普通の男を、ちゃんと芝居で演じられている事に驚いた。リチャード・ジェンキンス、あまりにも役柄に馴染みすぎて目立たなかったが長いキャリアでの初主演だった。彼だからこその脚本を書いて演出したトム・マッカーシー監督も、また役者で目の着けどころと活かし方がいい。
ごくごく普通の人が、人と出会いその間には友情なり愛情なりの温かいモノが生まれ、取り持ったのが音楽がだった。奇をてらう事もなく、するりとそんな人々を映画に映し出されている事に涙が流れた。
くたびれた男が出会ったのは、自らの落ち度は何もないが生まれた国では幸せに生きる事が出来ずに祖国を捨て、やって来たアメリカからもまた追い出されそうになっている、中東シリアとアフリカ・セネガルカップルだった。
舞台のニューヨークは、誰もが憧れるほどにビジネス、ショービジネスとアートで活気がある街だが、あの事件からなのだろうどんよりと重たい雰囲気に押しつぶされそうになっていて、外からやってくる来訪者に以前のようには寛容でも親切でもなくなっている。政府の入管政策も厳しくなり、人々の対し方すら冷たくなったように思える。
そんな来訪者に出会う事で、一人の男が生きる力と意欲を取り戻して行く。ほんのちょっと手を差し伸ばすだけで、人は助け助けられお互いが大切だとしっかり目を覚まさしてくれるが、そんな当然な事も忘れてしまうくらいみんな自分の事で精一杯なんだろう。
そうは言ってもアメリカを非難出来るほど、我が日本の来訪者を受け入れる態勢の貧弱さに頭をうなだれるしかないのだが、諦めてしまってはこの映画を観た甲斐がないというもの。
驚く事にラブ・ロマンスにまで発展するこの物語は、大人だからこそのひりひりするくらいの切なさにしっかりと魅せられてしまい、やっぱり、心をたたく映画だったのだ。