年末の新世界、大阪弁の渦の中

長年コーラスを楽しんでいる“かみさん”が、年末ギリギリまで『第九』の演奏会に参加していて、ここ数年一緒には帰省していなかった。しかし、年末コンサートが、なくなったので例年にない2人一緒の道中となる。
『大阪・より道、酒』にもついてくるというので、年末は “かみさん”連れで、和歌山からは母親も加わり、ブログのタイトル通りの『ひとり飲みブルース』とはならないので、あしからず。


↑この年賀状を受け取った人は「大阪 新世界にて」に込められたこの大阪ディープな場所『平野屋』を、想像できるだろうか。

マチュアのコーラスながら海外のコンクールや演奏会で、外国を旅なれている筈の“かみさん”も、意外に大阪・ジャンジャン横丁通天閣界隈の大阪弁のるつぼでは、なんだか弱腰になっている。
僕の予定では、散髪と銭湯でさっぱりしてから、お目当ての『平野屋』へ行くつもりで2時間ばかりの別行動になるよと言うと「私は、どうしていたらいいの」と、少し怯えた表情をする。
確かに、この原色看板の溢れる新世界を方向すらわからず、ひとりで過ごすのは厳しいかもしれない。
「あまり、胡散臭そうでない喫茶店にでも入ればいいだろう」と言うくらいしか答え様がなく、あっさり別れた。
バリカンですむ短髪の頭だが、ひげ剃りと洗髪もしてもらって1,100円は、ジャンジャン横丁の理髪店ならでは、仕事は手早く毎年のことながら安くてお徳感がある。そして、通天閣を見上げる銭湯に入り(露天風呂から、本当に通天閣を眺められる)、立ち飲みの名店『平野屋』へ行く準備が整った。

↑一年ぶりのご無沙汰、見上げる通天閣。目指すは、展望台ではなく、その足もとの銭湯。

↑ごく普通の銭湯だが、昼間からやっていることと、露天風呂から通天閣を眺められるのが売り。風呂上がりでさっぱりして『平野屋』で飲めるゴールデンコース。

↑喫茶店から“かみさん”が来るのを待つ間は、店に客が入るたびに中にまだ場所が残っているのかと気が気ではなかった。

“かみさん”の携帯に連絡入れると、喫茶店で年賀状を書いていたそうだ。入り口に「お一人様、必ず一品注文して頂きます」と大書きしていて、どういう意味なのかと立ち止まったら、自動ドアが開いて、入らなくては行けない雰囲気になったそうだ。店内は、別に変な感じはなく逆にチェーン店にはない居心地の良さがあったようだ。
『平野屋』の前で待っていると中の様子はわかりづらいが、店内はほぼ一杯の様子。
ここでひるんでは、いいポジションもとれないので「2人、入れますか」と言いながら、どんどん奥へ進む。
一番奥にいたおじさんが、少し場所を空けてくれその隙間にもぐり込み無事に飲み始めることができた。
“かみさん”が、喫茶店で書いていたという年賀状を出して来て、椿の絵柄のハガキに当たり前の年賀の挨拶文だが「大阪 新世界にて」の締めくくりに迫力があるというので、まさに大阪ディープな場所で、記念撮影をする。ますます「新世界にて」のパワーが増したようだった。

↑子持ちイカの酢みそに、サバのきずし。とにかく、ビールをごくごく。

↑定番のニシンの煮物だが、今回は、はっきりと甘過ぎるように感じた。

↑冬の定番“ぶりの造り”は、これはもう文句なし。厚切りが、たまらん。

↑ニシンよりもこれこれと納得させてくれた、カラスガレイの煮付け。関西のおふくろの味だ。

大阪のおっさんばかりの店内にいて、関西訛りがなくしかも女性だとかなり目立つ。両サイドから話しかけられても、もうすでに酒が入っている“かみさん”は、先ほどの弱腰から打って変わっていた。東京・檜原村生まれの“かみさん”には、大阪弁のおしゃべりの大半はわからなさそうなのだが、調子良く話を合わせている。

↑“かみさん”目線の店内撮影。観光客といったノリの2人だったので、許してもらおう。いつか、生ものとおかずのショーケースを、真正面から撮ってみたいものだ。

↑ポテトサラダは、マヨネーズかけるかと聞かれるが、もちろんこのままで充分旨い。

↑これも冬になくてはならない、自家製の千枚漬け。

↑びっくりするほど、ふっくら煮ているイカの煮付け。

↑最後の一品は、湯豆腐になった。ポン酢味で、かつお節からも良いだしが出て、汁ごと頂いた。

↑外に出てみると、貫禄ある月桂冠の看板の下に、飲んでいる間にしめ縄が飾られていた。

たっぷり、飲んで食べて満足して『平野屋』を出ると、入店時にはまだなかったしめ縄が、看板の下に飾られ年末年始の雰囲気を醸し出している。
調子に乗った“かみさん”は、新世界名物の串カツ屋に連れて行けと言う。
揚げ物を食べない僕に、そんなこと平気で言うのかと今更ながらに驚くが、この地で本場『ドテ焼き』を食べてみたいと思っていたので、ちょうど良いかとジャンジャン横丁中程の一番人が並んでいる串カツ屋へ入ることにした。
串カツを頬張る“かみさん”は上機嫌だが、『ドテ焼き』を食べてみるとこれが甘くて、まったくお菓子のような感覚。そう言えば、酒を飲んでいる客は、それほどいない。
それに酒ばかり飲んでいると、店の兄ちゃんに目をつけられ串カツをどんどん進めにくる。やっぱり、自分にとって大阪飲みは『平野屋』に尽きる。

↑狸がマスコットなのか串カツ『八重勝』、天狗の店と隣り合わせだったが、並ぶ列の長さからこちらを選択。根拠は、それしかなかった。

↑バットの2度漬け禁止のソースにくぐらすと、普段のトンカツソースの味とは違った味わいのようだった。20年以上、コロモの付いたフライものは食べていない自分にとっては、いくら揚げたての串カツが目の前に来ても、それほど食べてみたいという気にはならなかった。

↑何枚書いていたのか知らないが、絵柄の変わった「大阪 新世界にて」のパート2。その後、“かみさん”の年賀状は、和歌山へ行けば「和歌山にて」と変化していった。

先ほどとは違う富士山の絵柄で、自分が書いた年賀状を取り出した“かみさん”は、揚げ油とソースの濃密な中で「大阪 新世界にて」の記念撮影を再び、強要するのだった。(12月29日飲)