誕生日のディナーは、思い出横丁『ささもと』で


連れ合いが、朝から「今日は、私の誕生日だ!」と騒いでいる。
プレゼントを準備している訳ではないので「おめでとう」ぐらいは、言ってやりたいが、先に自分から言い寄ってくるのもいかがなものか。
連休初日の土曜日、時間があるなら一杯おごるよと言うと、新宿・思い出横丁『ささもと』に連れて行けと言う。以前に、友達と女2人で行って、女性だけの入店不可と断られて、どうにもやるせない思いをしたらしい。ここの焼きトンの旨さを知っているだけに、よけい悔しい思いが残っているようだった。
歴史の古い店には、その店なり独特のルールがあり居酒屋のなかには、女性だけの入店を断る店が、今でもたまにある。他には酒類3杯のルールもしかり、同じ思い出横丁の『カブト』は、4人以上の連れのある客は完全に断っている。客は、来てくれれば多いほど良さそうだが、小さい店に大勢で居座られたら困るといったところか。

↑誕生日にふさわしいかどうかは、この際、横に置いておこうよ。何より旨いもので酒を飲みたいところは、連れ合いと意見の合うところ。
さて、話をもどして、自分が気軽にいける店でおごるだけですむのだから、こちらとしては申し分ない。せっかくだし、映画を観てから飲みに行くことにした。
映画を観た渋谷から、新宿へ来るとなんだか落ち着く。
もともと、渋谷は映画を観る以外に出かける用事もなく、行けば若者も多くて落ち着かない街だなと思っていた。そんな渋谷もだんだん古くなり、駅のまわりは再開発の真っただ中で、新しいビルの“渋谷ヒカリエ”に立ち寄ってみた。渋谷の駅を一望する眺めもなかなかよいのだが、どうにも新しすぎてなんとなく馴染めない。
今日は、連れもいることだし新宿で飲むのだから、ゴールデン街の『ダンさん』へも行こうと思っていた。店に『ひとり飲みブルース〜ペーパー版』の冊子を置いてもらったお礼もちゃんとしていなかったので、菓子折り持参で飲みに行くつもりだ。
だから、渋谷ヒカリエの食品売り場にも行ったのだが、もう、何がなんだかわからない。こういう時こそ、連れ合いがいると助かる。早く『ささもと』で飲みたく切羽詰まっている状態なので、彼女に任せてさっと選んでもらった。
土曜日の思い出横丁は、サラリーマンが少ないだけに外国人観光客がやたらと目立つ。『ささもと』も、奥の4人掛けに中国人が陣取っていたし、隣は韓国人で母国から来た人を案内しているようだった。外国の土地で、こんなディープで肉の旨い店に来られるのはラッキーだろうし、知っていれば鼻高々で誰かを連れてきたくなるだろう。
ある程度なれているとは言え、夜の歌舞伎町は、表通りといえども、歩くだけでも至難の業だ。怪しい黒人が片言の日本語で話しかけてくるが、連れ合いがいるよと目配せすると「Oh、ソーリー」と目を丸くしていた。

↑大ガードから、歌舞伎町に向かって。かつて、テレビ番組の『深夜食堂』のタイトルバックの映像が、ここ靖国通りを車で走り抜けて行くのだった。また、テレビも映画にもなるそうで、楽しみ。
ゴールデン街に通じる遊歩道に来て、人も減りほっとする。2階へ続く階段を昇ると、店から人の笑い声が聞こえお客さんも入っているようだ。
店のベベさんが、開口一番「おもしろいことが、あったのよぉー」と、かわらぬ関西弁でこちらの顔を見るなり話しはじめた。
「思い出横丁の『カブト』人が、飲みに来てくれたの」
そう言えば、若い衆のSさんが、今度、ゴールデン街に飲みに行こうかなと話していたな。これも“ペーパー版”がきっかけだから、嬉しい限りだ。厨房のケンさんも、冊子の追加を持って来たら置いておくよと言ってくれた。残念だが、予定数を全部バラまいてしまったと、冊子を置いてもらったお礼にお菓子を渡した。
Sさんは『カブト』で、いわゆる配膳係をやっている。焼きたてのうなぎの串を客の前の皿にのせたり、ビールやお酒、金宮焼酎などを求めに応じて客に出すのが彼の仕事だ。今度は、客になって、焼酎を飲んだわけだ。そりゃ、うまいよね。(『ダンさん』で、金宮のボトルキープしてくれたそうで、末永く店とお付き合いをお願いします)
見知らぬ客同士が、わいわいと話しながら飲むのが『ダンさん』流で、今夜も面白い人たちと出会った。おもにおじさん達ばかりだが、女性の山帰りらしい服装の2人組がいた。この人たちとは、あまり話をしなかったが、そのひとりが、ふとこちらを見るなり「描いてもいいですか?」と、聞くとさらさらとメモにペンを走らせる。
急に、見つめられてどぎまぎしたが、出来上がった似顔絵を手渡された。
なんだか、怒っている顔をしていないかとその場では、文句を付けてしまった。実は、それは普段から自分が気にしていることだったのかもしれない。
後から、見直してみるとなかなか上手い。短時間に、さらりと上手く描けるものだと、せっかくだからブログに載せることにした。ことわりを入れてなかったが、また、店で出会うことがあったら、お礼に一杯おごらせてもらいたい。
そう言えば、今夜は、連れ合いの誕生日だったが、本人は、夜も更けて酔っぱらってカウンターにうつぶせて、寝息を立てているのだった。(9月13日飲)

↑最近、イラスト用の万年筆を買った。ペン先の角度で、太さを変えられるスグレものだ。ただ、問題は、こちらのデッサン力で、どうにも対象物にキャプションを付けないとなんだかわからない。居酒屋で、サンマの塩焼きを食べたなら、食べる前にそのサンマを描いて『ひとり飲み、絵日記』も、いいのでは、と思うも肝心の絵がヘタでどうにもならない。この似顔絵を描いてくれた人は、飲み屋で見た人を、さらさら描いて、すぐそれを相手にあげてしまう。パッと見て、人の特徴をつかんでさらりと描く。むむ、凄いな。