うつぼにまみれて、年始は南紀から

あけましておめでとうございます。
遅ればせながら、年始の南紀の話で、これはひとり飲みではない。正月の帰省の際、恒例となった紀伊・田辺、白浜温泉の一泊新年飲み食い旅行で、母とかみさんと3人でもうかれこれ7年も続けている(ひとたび、気に入ってしまうとトコトンまでの習性が、自分だけではない気がする)。

↑かみさんは、新年の年賀状を書きながら正月を過ごすのが恒例で、南紀の旅行中もそれは続く。まさにそのまま、その場所で『和歌山白浜より』と書いていた。
母や姉が在住している和歌山県北部と、南下した紀伊・田辺、白浜温泉とは、食文化や風習にも違いがある。
和歌山駅から紀伊田辺駅まで特急列車で1時間余の距離でしかないが、実際に訪れてみると、とてもおもしろい。7年前、和歌山のクエ料理がブームになりはじめた頃に、地磯でとれた天然もののクエを食べに来たのが発端だ。
駅前旅館に一泊して、ご当地の食や白浜近隣の温泉にも入り満喫する。正月にもかかわらず夜ともなると、駅前の飲食街『味光路』は人で溢れていたのにまず驚いた。地元から外に出ていた人が、帰省で集まっていることもあるし、もとから漁師町気質もあって正月はみんな集まって飲んで盛り上がろうと活気づいているのだった。
季節料理『しんべ』は、元気のいいおやっさんの魚料理がメインで、寿司・割烹・和食のジャンルに入るようだ。座敷が10室ある構えでも、居酒屋のような気さくな感じがあって、いつも3人できてもカウンターに座り地元の雰囲気に包まれながら飲むのを楽しんでいる。

↑季節料理『しんべ』ののれんの顔は、元気のいいおやっさんの顔だ。座敷は、同窓会や宴会で満席状態、カウンターもみるみる埋まってしまった。ちなみに、カウンター3席は、昨年末に予約しておいた。

↑サービスのあら煮のほどよい甘辛の味付けが最初のビールに合うし、早く燗酒も飲みたくなって来た。

↑驚く、一人前の刺身盛り合せである。食いしん坊3人は、もちろん各自に一盛りだ。ナガレコ刺身(小型のアワビに似た貝)は、もうけもので、この地に来ないとなかなか食べられないもののひとつ。

刺身の盛り合せが豪快で、品数の多さが魚好きにはたまらない。今年は、漁期の関係で夏にしかないナガレコ(関東では、トコブシ)の刺身も入って得した気分だった。
つきだしのようにサービースで出てくるあら煮の血合いが旨く、しっかり煮魚を食べたくなった。厨房のホワイトボードに本日の魚や食材を書き出してあり、カウンターにいればそれも見れて、石鯛が目に留まったので注文したが売り切れで、真鯛のカブトも入ったあら煮にした。

↑名物のエビ団子は、揚げたものだけだとばかり思っていたが焼きもあったので、喜んで注文した。

↑薬味のねぎで、姿はわからなくなっているが牡蠣の味噌焼。

↑牛ロース山椒焼き。いい魚の取れるところだからこそ、肉料理も美味しく食べる。他の店でも、寿司屋でも牛ロース山椒焼きは、置いてある。

たっぷりと身がついた大ぶりの鯛のあらで、ひとりでは手に余る量でも3人ならぺろりと食べ煮汁が残るのみに。それを見た店のおやっさん
「よう、きれいに食べてくれたなぁ。もうひとつ楽しむならいい方法があるでぇ」と、煮汁の大皿を下げないで「ここのお客さんに、小メシ3つ至急持って来ちゃって」と、声を張り上げた。
魚の煮汁、掛けご飯の旨いこと。
最後の仕上に寿司を食べるのもいいのだが、今夜のご飯ものは煮汁掛けご飯でもう満足と、箸が止まらずあっという間に3人ともかき込んでしまった。

↑鯛のあら煮。見かけしょう油の色が濃そうで、甘辛ではあるがそこまで塩っぱくはない。一緒に煮られ魚の旨味をすった“ごぼう”が、旨い。

↑心憎いおやっさんのサービス、魚好きならこれをやらないとね。でも、外食ではなかなかやれないかも。
      ☆
温泉の方は、初日に田辺湾の北の岬にある天神崎、カンポの宿の立ち寄り温泉に入り翌日は、白浜温泉に行った。有馬温泉道後温泉と並ぶ日本三古湯のひとつ白浜温泉で、磯の波打ち際の昔のままの湯壺が残る『崎の湯』にした。
海から直接風や波しぶきがかかる露天風呂に冬場入るのは、苦行のようだがこの年末年始は、かなり暖かかったので思い切って入ることにしたのだ。

↑『崎の湯』は、本当に風が吹きっさらしの岩場の海際にある。湯舟内は、当然のことながら撮影不可だったので横から撮ったが、回りの岩と同化してよくわからないね。その岩の向こうにあるのだが。

↑混浴ではなく、ちゃんと男女に分かれた更衣室もあるので男女とも入るのに問題はないが、冬場は、とにかく温泉に入るまでが寒いから大変だ。
一度入ってしまえば、温泉につかっているかぎりいい気持ちだし、じっくり暖まる塩分の入った温泉効果も充分で、手早く濡れた身体を拭いてしまえばほかほかで湯冷めなんかしなかった。何より、手で触れるほど間近な海と水平線を眺めながら入る露天風呂は、贅沢の限りだ。
白砂のしらら浜の真ん中にあり、2階にある湯舟から白い浜と青い海を見渡せる『白良湯』にも入った。

↑2階にある『白良湯』は、眺めがいい。広い湯舟でないが、白砂と青い空と海を見て湯につかることができる。

温泉の後は、とうとう、うつぼまみれである。水槽にある生きたうつぼとはまみれたくはないが、料理とはゆっくりまみれたい(日本語へんかな)。
前々からうつぼ料理にハマるきっかけになったのが、紀州の味処『銀ちろ』だ。
本店は、田辺駅前の横丁『味光路』のど真ん中にある。それも、路地に小さい店が建ち並ぶ中に、ひときわ大きくまるで大旅館のような風格である。全室個室で300席、宴会最大人数80人の対応で、営業時間も11:00〜22:00の中休みなしだから、夕方の特急列車で東京に帰る予定の午後にゆっくりと飲み食いできるのだ。

紀州の味処『銀ちろ』は、駅前店もあるが『味光路』の細い路地を抜けてからこの本店に来るのがお勧めだ。

↑毎年、来るごとに水槽の中のうつぼの数が増えていると思う。料理の品数も充実して来ているし、何より美味しいから人気もでてきたのだろう。
うつぼ料理も、驚きの薄造りまで出て来るようになった。
写真で、見てもらえばわかるが、てっさ、ふぐ刺しの形状、食べ方のそのままである。但し、身がかたい。かたいが、噛んでいると味わいも深い。湯引きした皮も身も味が濃い。
食いしん坊の3人、初物の薄造りは一人前各自にひと皿づついただいた。ワイルドなうす造りで、燗酒にもばっちり合う。メニューにも載っていないし、要予約になっていて、ちなみに、うつぼ料理は冬季限定だ。

↑うつぼの薄造り。一番太い胴の一部分からしか、刺身は取れない贅沢なものらしい。ぜひ、予約して行こう。

↑このうつぼ鍋は、小鍋じたて。

↑うつぼの照り焼き。ウナギよりは、身の脂はあっさりに感じるが、皮が厚いゼラチンの濃厚な味わいに強さがある。

↑うつぼの唐揚げも旨そうなのだが、長年揚げ物を食べていないので僕は遠慮した。
初物の第2弾は、うつぼ鍋。
ベーシックな薄塩だし汁に皮付きうつぼと豆腐や鍋野菜が入ったもの。ポン酢やタレはなく、そのまま煮汁と一緒に食べる。うつぼは、煮ると身はホクホクになり、とにかくゼラチンの皮がぷるんぷるんで旨い。
照り焼き、唐揚げは、定番の味だけれど、生、煮、焼き、揚げでそれぞれの表情、個性を変えてくる名役者に思えて来た。生きている顔は、悪役そのものなのだが。

↑「ひとはめ」の酢の物。わかめのようだが、歯ごたえも独特のぬめりも強い。

↑サバの棒寿司。やや甘酢が強いとは思うが、酢飯にほんのり香るゴマが入り、身の厚いサバの身と白板昆布が口の中でまじり合って、嗚呼、酒が欲しくなる。
うつぼにうつつをぬかしてはいたが、ご当地に来たのなら鯖の棒寿司を忘れてはいけない。自称サバ好きは、最後の締めに食べたが、これも酒の肴になって燗酒が止まらない。
うつぼの余韻と昼酒の心地よいに酔いにひたりながら、駅に向かう途中でかみさんが見つけた喫茶店の看板があった。正月休みかシャッターが閉まっていたので、食後のコーヒーとはならなかったが、その名前に驚愕したのだった。
ウツボムーン』
まさに、うつぼにまみれた気分の新年南紀の旅だった。(1月4日 飲)

↑うつぼと月。意味深なのか、どうなのか。

↑男女の仲なら、そろそろ浮気なんかの間違いがあってもの7年目だが、正月南紀の旅行はまだまだ続くだろうなと特急くろしおの車窓から沈む夕日を眺めながら思った。