完全無欠の『大阪・寄り道、酒』

年末、早々にブログの最終アップをすませ、たっぷりと年末年始の休暇をふるさとで楽しんできた。その報告もしなくてはと思うが、実のところこの数年は基本的に同じことを繰り返している。
大阪で寄り道をして飲み、地元の和歌山で飲み、最後に和歌山県も南下して紀伊・田辺、白浜まで家族と行って温泉とご当地料理を楽しみ飲んでから、東京に戻ってくる。毎年ほとんど、同じようなものを飲み食いしていてそれを書くのも気が引けるが、もともとこのブログは、そんなに変化に富んだ情報を載せて来た訳ではないのだからと気を取り直し、簡単にサクッと載せることにする。

↑今年、一枚目の写真は、世界遺産の富士山だ。年末帰省の道すがら、東海道新幹線の車窓から雲ひとつない日本晴れの雄大な姿を見せてくれた。この後、米原あたりから真っ白な雪景色も楽しむことができた。
『大阪・寄り道、酒』年末計画の素晴らしさは完全無欠だと、自画自讃している。
朝、東京を出て、昼に大阪に着く。
環状線をどっち回りでも良いが、大阪の街並をぼんやり眺めながら、新今宮駅で途中下車。コインロッカーに荷物を入れ身軽になってディープな新世界に潜入し、ジャンジャン横町で散髪をする。短髪の坊主頭なので、普段は自宅で自らバリカンをあてて済ましているが、年末だものすっきり、さっぱり、自分にご褒美。だけど、ひげ剃りも、洗髪も、全部やってくださいと、贅沢コースも1,100円の激安なのだった。

↑さすがは年末の日曜日、客も多く順番待ちで番号札を持って待つことになった。とは言っても、刈るほうも刈られるほうもおっさんばかりで、何も問題もなく端的にテキパキ進む。バリカンだけで刈れる頭とはいえ、ひげ剃り、洗髪して1,100円とは驚きの安さで、綺麗にしてもらった。

通天閣に向かう途中で、いつも前を通る『新世界国際劇場』は、一階は3本だての洋画で地下はポルノ映画。風格ある建物に魅せられて、一度、映画とセットで立ち飲みを楽しもうと思ったが、サイトの噂で男と男の出会いの場だとか読んで、恐くなって前を通るだけにしている。

通天閣の裏側から。混み合う正面の繁華街はさけて、裏通りから、さっさっと銭湯に行く。

↑銭湯に入ろうと思ったら、中から派手なスポーツウエアの男女数人が出て来た。なるほど、銭湯で集合し着替え、近辺を走ってから風呂で疲れを取る計画か。繁華街の銭湯だけに、色々と利用できるんだな。こちらは散髪の後、全身を洗ってさっぱりして露天風呂から通天閣を眺める。そして、一杯やるのを楽しみに。

↑銭湯ののれんをくぐると、キリンの木像が真ん中にデーンとあった。通天閣のように見上げ、下駄箱にキリンとは意味もわからずちょっぴり驚いた。

朝飯は、新幹線の中でコーヒーとサンドイッチと、軽くすませておいた。散髪が終わったあたりでかなり空腹を感じるが、もう少し我慢して通天閣の足もとにある銭湯へ。ここは日中から営業している、ありがたい銭湯なのである。
その前に目当ての立ち飲み『平野屋』の前を通るので、チェックしてみたら相変わらずの人気店でおっさん達が鈴なりなのが外からでも見える。ここで、気もそぞろになってくるが、昼飯がてらの一杯で混んでいるようで少し間を置いた方がよさそうなのだ。
はやる気持ちをこらえ、銭湯にゆっくり入って2時過ぎに行ってみると、先ほどよりは余裕で、店内の煮物と刺身各専用の二つあるガラスケースの真ん中に陣取ることができ、本日のおつまみが確認できる好位置につけた。

↑立ち飲み『平野屋』は、外から見ておじさんのお尻が鈴なりでも勇気を出して中に入ろう。店のお兄さんの指示を受けつつ、もしいっぱいでダメだったら銭湯に行くかそこらをぶらぶら一回りして、再チャレンジすればいいのだ。

↑「ハートランドビール」は、癖もなく飲みやすかった。容量 500ml は、ひとり飲みにちょうどいいサイズだった。身欠きにしんと一緒に。

↑冬場の人気、ぶりのお造り。すかさず、ぶり大根はないのかと聞いてるおっさんが、何人かいた。

↑関東風に言えばメジマグロで、大阪に来たからと言ってヨコワ(関西風呼び名)とすぐには言葉に出て来ない。マグロみたいなの頂戴といったら「マグロとちゃう、ヨコワだよ」といわれたが、マグロの子供じゃんか。皮焼きをポン酢で食べる。

もちろん、風呂上がりだからビールも旨い。グリーンの色鮮やかなボトルの『ハートランドビール』は、容量が500mlで、大瓶より少なくひとり飲みにはちょうどいいかもしれない。くいくいと飲んで、いい具合に燗酒にいくことができる。
それにしてもこの店の客の年齢の高さは、かなり凄い。
隣に来たおっさんは、もうお爺ちゃんはといっていい感じによれて、しおれていて、毛糸の帽子だけが妙に新しく見える。危なげに揺れながら立ってふにゃふにゃだけど、ぶりの造りにかぶりつきビールをごぼごぼ飲んでいる。酒飲みとして、天晴れである。
前回来た時も、孫娘に付き添われて来ていたお爺ちゃんは、病いから帰還したのか不自由そうな半身で杖をつきながらもチューハイを飲んでいた。
しぼりたて生酒のおかわりを僕が、注文したところ
「その酒は濃いぞぉー、酔うの早いでぇ。そやけど、ええなぁー強い酒は」
ちょっと寂しそうに言っていたが、携帯に電話が入り何やら話して切った後で「よっしゃ、明日は仕事やでぇー」と。とにかく、元気がいい。
「兄ちゃん、もう、そんなに飲んでんのか」
今、隣に来たばかりの客にさらりと言われた。一合の燗酒を入れるアルマイトのチロリが5つ積み上げているのが、なんだか肩身がせまい。
日本酒は、5杯が限度と決めた自らのルールに従って、心残りだがこれで終わりだ。コップに残っている最後の一口をぐいっと飲んだ。

↑店自家製のかぶの千枚漬け。こんな大きいかぶら自体が東京では出まわっていないので、めずらしく冬らしい旬の味。大根なますとはひと味違う。

↑う巻きの鰻は、申し訳程度だが、何たって安いもの文句は言えない。あっさり、ほっこりしたの関西風卵焼きを食べたかったので。

↑からすカレイの煮つけ。この一切れで、とんでもなく酒がすすんで困ったものだ。

↑意地悪で「ようけ、飲んでるなぁ」と言われた感じはなかった。だって、これだけ積み上げてるのだもの。これを、伝票代わりに計算してくれる。
『平野屋』を出て、ふらりふらりとジャンジャン横町を抜けて通り出るとそこは西成区、かつてのドヤ街、日雇い労働者の街。安宿も立ち並んでいてアーケードの商店街も長く延びているが、どこか寂れた風情もあり、東京で言えば台東区の山谷と同じ匂いがする土地で、繁華街とは一線を画している。
同じ『平野屋』ファンの飲み友だちから、西成区の通り沿いにホルモン串の店の話を聞いていて、気になっていた。たぶん、ここであろうと店は見つけたが、客が誰もいないので入りにくい。
とりあえず、アーケードを歩きはじめたら、『酒房・豊後』『ましば酒店直売所』『居酒屋あだち』『食べ処呑み処・セロン』などなど、商店よりも飲み屋の方が多いのではないだろうか。それにしても『セロン』とは、どんな意味か? 『サロン』のもじりか?

↑アーケード商店街の中は、食堂兼飲み屋が多かった。逆に、普通のそば屋やレストランがない。意味不明の名前『セロン』に入ってみる勇気はなかった。
入ってしまえばそんな事はないだろうが、気軽に入れる雰囲気ではないので、元の通りに戻ったら先ほど目星をつけたホルモン串焼き屋に客が入っている。そして、隣の居酒屋で、サックスのジャズ生演奏が始まっていた。おいおい、何でここでジャズなんだろうと思ったが、目星の串焼きの方へするっと入り座った。
「揚げたのぉ、焼いたのぉ」と、おばちゃんが聞いて来るので、どぎまぎしながら「焼いたの」といったら、キャベツを敷いた鉄の皿に串が5本しょう油系のタレがかかって出て来た。それも驚くほどすぐ出て来た。

ジャンジャン横丁を通り抜けて通りを渡った西成区側で、歩道と一体化した牛ホルモン串焼き屋。店の前に行くと、通りを見てるおばちゃんと目が合いそうになり、斜めからそーっと撮った(意気地なし)看板もなく店名がわからない。

↑串焼き屋の店に入った後でおばちゃんいないスキに、再び、盗撮気味だったが、アングルが上過ぎて調理の部分が写っていない。今度は、ちゃんとことわって撮らせてもらおう(無理かな)。
やっぱり、大阪のホルモン串焼きは牛(ぎゅう)だった。

内臓系と言うより、脂身とスジっぽいくず肉が太めの串に巻き付けている。カウンターの目の前にバットに入ったソースらしきものが入っていて、揚げの方は串カツのようにコロモが付いているのだろうか。揚げ物は食べないので確認することもできないまま、ビールを飲んだ。

↑つまみとしては、しっかり役目をまっとうしてくれる激安のホルモン串焼き、一本20円。たまたま、隣の店でジャズの生演奏があったのでよけい夢心地になったのかもしれないが、外の通りとの微妙な位置関係と雰囲気があった。

おばちゃんが、隣の生ジャズ演奏をのぞいたスキに盗撮気味に店内の写真を撮っていて、後から確認してわかったのだがこの串が20円だった。店名を見つけることもできなかったし、牛ホルモン串焼きとビールでいくら払ったのか実は、記憶がない。
年末にしてはかなり暖かく、西成区の通りに身をさらしてホルモン串を食べビールを飲みながら、ジャズの響きに夢のようなぼんやりとした感触が残った。(昨年末12月29日 飲)