築地にて

築地の隣の新富町の事務所に通いだして、かれこれ2年になろうとしている。義父親に、築地のいい寿司屋を教えてよと言われるが、毎日、夜遅くまで仕事に追われる生活で持参する弁当の昼食以外は、夕食などもコンビニのおにぎりなどでごまかす生活が続いている。とても、寿司屋を吟味して食べ歩くなどまったく無縁だ。基本的に平日には酒を飲まないようにしていいるので、パソコンの前でほおばるおにぎりの夕食が続いても別にかまわない。ただ、週末ともなれば気持ちも変わってくる。仕事があったとしても土曜日なども、やっぱり家でも外でも酒をゆっくり飲みたいと思うのが、酒飲みの人情ではないか。
連休前の週末、金曜日の夜は、コンビニおにぎりに手を出さないで空腹を我慢して、仕事を終え一杯やって帰ろうとした。結局、かなり遅くなってしまったが、とにかくビールだけでも流し込もうと、ビア・パブに行った。築地小学校と道をはさんで向かい側にある店で、二宮金次郎銅像に軽く挨拶をして生ビールを飲んだ。

日比谷線築地駅を利用しているが、外国人観光客も含め築地に遊びに来る人々でいつもごった返している。さすがに、早朝では買い出しに来るプロ達が目につくだろうが、日中はほんとが観光客ばっかりの築地。
翌日の土曜日も仕事で、今日一日頑張れば日、月曜は休めると頑張るもののやっぱり夜も遅くなった。他のスタッフは、早々に外に晩ご飯を食べに行ったが、仕事を終わらせて一杯やりたいこちらは、なにも食べずにいて空腹のまま遅い時間にやっと解放された。もう新宿にも行けないし、昨日と同じにパブでビールを流し込むだけも寂しいし、なにか食べたい気持ちもあったので、居酒屋に入ることにした。若者向けの居酒屋チェーンではなく、昔風のどこの町にもあるような赤提灯の典型的な居酒屋『◯忠』築地店に吸い込まれた。
今日は仕事の日という認識で、カメラも持っていなかった。生ビールを飲み、アジたたき、サンマ塩焼き、みょうがの酢みそを注文した。ホッピーにして調子よく飲んでいたら、もう一品ほしくなり、ふと目に留まった厚焼き卵をたのむことにした。
「うちのは、大きいですよ」と、返す言葉ですぐに言われた。空腹で来たので、まだそれなりに食べることができそうで、頑張りますといったら
「そう、無理して頑張りすぎる人もたまにいるけど」と、不気味なことを言う。果たして、その焼きたての厚焼き卵は、市場の専門店で売っているほどの大きさだった。ふわふわでやや甘口の味付けは、旨かったが、それにしても大きい。

↑すでに3切れ食べても、これだけのあるのだもの。帰ってから、冷蔵庫に入れ翌日のいい酒のつまみになった。
この卵焼の一人で完食は、無理だ。2切れ目を取ったところで、女将さんはプラスチックの入れ物とフクロを持ってきてくれ、皿から厚焼き卵を取り分けてくれた。
さすがに頑張ると言った手前、3切れ目を取り皿にとった。これは、卵5個ぐらい使っているのですかと聞いたら
「うちは、Mサイズだから7個ね。かなりのサービス品ですよ」
だからといって、この量はないのではと思うが、顔の表情からすればそこらあたり重々わかりつつも、うちの人がね頑固でと口を濁した。
ごく普通の魚も揚げ物もヤキトリまで何でもある大衆値段の居酒屋だったが、厚焼き卵に情熱を傾けているところに、築地エリアにある磁力を感じるところだった。
結局、いいおみやげをぶら下げながら帰ることになった。(10月12日 飲)