さよなら銀座シネパトスとかみさんの誕生日

(9月15日)
記念日とかをまったく気にしない性分でも、自分の誕生日くらいは酒を飲むにしても少ししみじみと思う。かといって、人の誕生日をちゃんと覚えておける事はなく、かみさんの方から今日は私の誕生日と告げられた。何かを期待していっている訳ではないようだが、おめでとうを言うだけではこちらも後ろめたく、今週土曜日あたり飲みに行こうかと言葉を続けた。
そう言えば、この前のこちらの誕生日に一杯おごってもらっていた。それに、母からの誕生日プレゼントの金一封も手つかずに残っていた。

↑東銀座のシネパトスは、晴海通りの下にある映画館で、その下には地下鉄日比谷線も走り、ときどき映画とは関係なくゴゴゴーと電車の走る振動が席に響いてびっくりする。
計画をすれば、案の定というか、仕事になってしまった。夕方には終わりそうで、飲むのに支障はないが、時間の節約で築地か銀座あたりにいい飲み屋はないかなと考えたら、そうそう、少し前に刺身定食を食べに行った『千里浜』があった。随分昔に、飲み友だちに教えてもらった魚の居酒屋、ふと思い出して映画を観る前に昼定食を食べたら美味しくて、今度、夜に飲みに来ようと思っていた。
映画好きにとって、この近くで目印になるのが銀座シネパトスで、かみさんと携帯で待ち合わせ場所を決めるのならここが間違いなかった。
映画館の前に来たかみさんは、ああここもなくなるのねと、聞き捨てならない事を言う。知らなかったので、驚いて聞き直した。『サンケイ・エクスプレス』というタブロイド紙を毎夜、愛読しながら晩酌をするのが楽しみのかみさんは、僕なんかよりは数段情報通なのだ。
昨年のエビスガーデンシネマといい、渋谷シネセゾンといい、休館、閉館する映画館を映画ファンは、手をこまねいて憂うしかない。映画のデジタル化は、仕方ないとしても現存するフィルムの映画数と価値を考えたらまだまだ、映写機のある名画座的映画館の役目は大きい。過去の映画をデジタル化して映画館で観る事ができる可能性もなくはないが、実際は、不可能だろう。
未見だった、戦後の成瀬巳喜男監督の映画も今年春、やっと、この銀座シネパトスの特集上映で観る事ができたばかりだった。昭和生まれでなく、昭和を生きた日本人にとっての敗戦という時代が、どんなものだったかを深く考え、感じさせられた。来年の3月までの銀座シネパトス、劇場を舞台に映画が撮られ最後の上映にされるようだが、数日後、たまたま映画館の前を通りがかったら撮影をしていて、おぉ、と思ったが、閉館ばかりは何とかならないものかと悔しい限りだ。自分で行動起こさないと良き映画ファンだけでは、観たい映画も観れなくなる時代がやって来ているのか。

↑土曜日だからか、全体にのんびりとした雰囲気の店内だった『千里浜』
『千里浜』は、思っていた通り、お魚天国だった。本日の魚や貝類などホワイトボードに書かれ各席の近くに置いてあり、店のおばさんに料理をたのみたい時、でーんと目の前に持ってきてくれる。
刺身、焼き、煮る、基本魚介類が王道の単純明快な品揃え。だからこそ、素材の鮮度や火の通し具合に技が光る。焼きホッキ貝の塩分抑えた、旨味の塊にため息が漏れる。煮魚金目鯛も、甘辛煮汁がどうにも厚い身にからみついている。

↑ホワイトボートのメニュー板は、何枚かを各テーブルやカウンタ、座敷に配置されていた。

↑シメサバは、少し不満が残る平均点足らずだったが、白エビの刺身は、まったりと酒の肴にもってこいだ。

↑酒の常温、大徳利が魚類を食べながら飲むには一番だな。

↑ホッキ貝焼きは、絶妙の焼き具合と味付けだった。

↑身の厚い金目鯛を包み込む甘辛の煮汁のバランスがいい。
高級魚のノドグロは、ちょっぴり小さいが、これも塩分抑えめで上品な脂と味わいが口に広がり、干しと焼き具合の良さで頭からぼりぼりいける。
日本酒は、常温がいい。冷や、というと今は冷蔵庫から出てきた日本酒になるので常温、大徳利でたのむのが『千里浜』タイプの魚中心の居酒屋の場合、正解だ。

↑なすの1本漬け。

佐渡や新潟で何度もノドグロ食べてきたかみさんは、ちょっと小さいわねと偉そうに言う。とんでもない、小さくたってノドグロは、ノドグロだ。

↑母のこころ使いに、感謝。
お会計は、母のプレゼントだと少し足りなかったが、酒飲みの二人にしてはほどほどだった。つまみのひとつひとつにボリームのある、さすが魚専科って感じだ。
このまま帰るには、すこし寂しいので、待ち合わせ前に近辺をぐるりとして見つけていたビア・パブへむかう。プレゼントを買う酔狂はないが、洋酒の類いも好きなかみさんが喜びそうな店にも連れて行ってやろうと目星をつけていた。
ベルギービール、シメイの看板にも惹かれてはいった『Favori』は、ビールとワインの店だった。めずらしく、シメイの生ビールが飲めるのでラッキーだ。

↑探してみると東銀座の馬券売り場あたり一帯にいろんな飲食店が点在してる。『Favori』も、そんな中のひとつ。
ご存知だろうか? 修道士が仕込む香り高いベルギービールで、太いずんぐりとした瓶で、蒼、赤2通りの味がある。デパートなどの大きい酒売り場でもよく見かける。逸話のようだと数少ない修道士だけでは、とても仕込みきれないほど出回っているビールだが、それのドラフトは見かけた事はなかった。
専用のシメイグラスに250mlが、950円。ワンパイントでなくてこの値段は、ちょつと高いのねと、おじさんは正直に口にだしてしまう。アルコール度数が、ビールにしては少々高いんですよと、バーテンのお姉さんはすまして答えてくれた。
確かに、きりっとアルコール高めな斬れと重さを感じる。仕上げに飲むのにも、いいかもしれない。銀座のほろ酔いもなかなかよいものだと思いながら、財布にダメージが来ないうちに早々に帰る事にした。

↑生のシメイは、これはこれで旨いものだった。