夏休み的な休日② プチ旅行だって、代わり映えなし

一年前に勤めていたデザイン事務所では、年一回の社員旅行があった。秋に事務所を辞める前、梅雨も終わりの頃、行った江の島の旅行がとても楽しかった。もう長く東京に暮らしていながら、こんな近場に海を楽しめるいい場所があったのだなと、事務所の旅行の1カ月後にまた、かみさんと出かけたほど気に入ってしまった。

↑また来てしまった、3度目の江の島。

↑何も紹介する必要もないでしょう、桑田佳祐の最新ベストアルバム。湘南、江の島に行くのなら旅のお供として申し分ない。
あれから、もう一年なんだなと思う気持ちもあり、事務所の社長も今年の2月に亡くなっているのでよけいに感慨深く感じていた。夏の休日「生しらす丼でも食べに行くか」とばかりに、朝からふらりと江の島に出かけた。
気に入ってしまえば、何度となく同じ行動に飲食も含め繰り返す傾向が否めないのが自分らしいと思い至りながら、東京駅から東海道本線に乗り込んだ。
鎌倉にも立ち寄ってみたら新たな発見もあるだろうが、そのまま江ノ電に乗ってゆらゆらと江の島まで行く。江の島と一緒に海から見える富士山にひたすら感動した一年前だったと思い返しながら、また、来ちゃったなと我ながらあきれる。

↑同じシラスでも、生と釜揚げは別もの。暑いが、外のテーブルのほうが生ビールが旨い。

↑これこれ、これを食べにきたんだ、たっぷりの生しらす丼。
島の姿形がなんともサマになって見えるのも、長い間たくさんの人達に愛されてきた故のように思える。垢抜けた観光地と言ってもいい意味に受け取られるかどうかわからないが、ただ、訪れてみてそれなりに満足し、また来たくなるオーラを感じるのだ。そして、釜揚げシラスを食べ、生ビールで喉を潤し、生しらす丼をかき込むとますます充実感が高まる。
真夏の暑さにヘタレそうになるが、心地よい海風に助けられて灯台まで登り、眺める相模湾、太平洋を実感しての景色はなかなかのもの。海のコバルトブルーが沁みるのは、心身ともに疲弊しているからかもしれない。

↑弁天様の神社を抜け急勾配をふーふー言いながら登らないと灯台にまで行けない。有料エスカレーターのエスカーなるものも設置されてはいるけれど、やっぱり自分の足で歩かないとね。

灯台からの眺め。心地よい海風も吹いて、いつまでも飽きさせない。

相模湾を望むと、遥か太平洋を感じる海原が広がっていた。

↑洞窟のあるところまで降りてきた。ごつごつとした磯場になっていて、釣りもしてるし、素潜りポイントでもありそうだ。

毎年、夏の恒例だったシュノーケリングの素潜りも歳と共にやらなくなってしまったなと、磯のいいポイントに立っても今は眺めるだけで寂しい。
前2回来た時は、運航していなかった渡し船の赤い旗が、青い空と海に映えてはためいている。まだ、歩いて帰る体力は充分残ってはいたが、せっかくだ、この機会に乗れたらいいなと行ってみるとちょうど風のため本日の最終便が出るところだった。島を半周して橋のふもと間の往復でほんの近い距離だが、海からの島の眺めは風情があるものだ。船頭さんも含め、船の運航に関わっている人はみんな漁師を引退したおじいさんばかりのようだった。潮風は、建物や車、特に鉄でできているのものを腐食させ寿命を短くしてしまうが、こと人間に関しては、とてもいい作用をおよぼす。長年、潮風にさらされた漁師さんは、本当にいい顔をしているし、体全体を磨かれたいぶし銀の風貌をしている。島の弁天さんの名をいただいた『べんてん丸』のおやじさん達は、ほれぼれするほどのいい男達だった。

↑3度目にして、渡しの乗合船が営業していた。赤いのぼりが、素敵。

↑海の男は、潮風によってつくられるのだ。凛々しい姿、何ともカッコいい。

↑数分の船旅が、旅の気分を盛り上げる。
むさ苦しい僕は、少しでもさっぱりしたいと稲村ガ崎の温泉に入る前に散髪する事にした。普段は、自分でバリカンを当てる程度の頭なので、何も気にせず短く刈ってくださいと気楽に頼めるのだ。顔そりまでしてもらう30分ほどは、なかなかのリラックスタイム。散髪屋さんの写真を撮って、海岸の温泉に行こうと歩きはじめた道の先に海が見えた。海辺の風情だ。

↑その土地土地で、散髪屋するのはかなり楽しい。初めはちょっとドキドキしたが、短髪の坊主頭だから間違った髪型にすでになり様もないのだからと気がついた。髭も剃ってもらって、旅先で一皮むけたような錯覚が楽しいんだな。

↑散髪屋さんの写真を撮り、横を振り向くと道の先に海が見えた。旅情をそそる風景だった。

↑『稲村ガ崎温泉』は、江の島プチ旅行の恒例になっている。江の島も見える海岸沿いのロケーションにある。江ノ電の駅からも歩いて10分ほど。

黒々としたお湯の稲村ガ崎温泉の後は、一杯やるしかありませんな。
江ノ電で藤沢まで行って、三度目の酒処・喰処『久昇』へ。地元で人気店なのは充分承知しているが、開店早々のれんが出るのを待って入ってみると、カウンターも含め全席予約が入り満席状態だと言われる。むろん、店を開けたばかりで客は来ていないが、お通しや箸などが用意され予約席の札もちゃんと置かれる。亭主は、申し訳なさそうだが慣れた感じで、予約の客が来る6時30分までと時間が決まってしまうがご案内できると言う。

↑藤沢『久昇』は、チェーン店にはない地元に根付いた風格を持っている。
「こっちは、ひとりなのでそんなに長くは飲んでませんよ」と、答えてカウンターの板長のまな板の真ん前の特等席に着く。
大皿に盛り上げた料理も目の前に並び、なかなか良い席だ。前に来たときも感じたが、昔風の喰わせる居酒屋で一品がかなり量が多いのだ。たっぷりと食べでがあるので、品数は楽しめない。ここは、慎重に肴を選ばなければならない。

↑旅先の温泉上がりは、もう生ビールがぐいぐい。

↑悩んだ末に、シメサバ。なっとくのさばと〆具合。

↑煮穴子は、やわらかく煮上げられていた。穴子の味たっぷりの煮汁を含んだ、わかめがまた旨い。

↑おからにしては、贅沢にいろんな具材が入っていた。ここでもぐいぐい酒が、進む。

シメサバの脂ののりといい、出汁をきかせ煮あげた穴子はふわふわで、具沢山のおからの味付けはプロの味を感じた。なんだか、これだけでお腹いっぱいになってきた。
それに、常温の大徳利を2本ぐいぐいやったら、結構、いい気分だ。制限時間の30分前に引き上げる事にした。板長の真ん前で、写真を撮りながら飲んだので緊張したが、もう、酔っぱらってきたので気にせず「美味しかったです。御馳走様」と声をかけると、強面の顔がゆるんで愛想よく送り出してくれた。

↑1年前の初めての江の島旅行で、偶然見つけて入った『南口やきとん』

↑知らない街の焼きトン屋で、ひとりで飲んでる楽しさがあったが、今回は、粗が目について何となく楽しさが半減していた。

↑油がダメなのに、ハツテキのチョイスは大失敗。これをやっつけるだけで、とても他のものに手が出なかった。
さて、気分的にはもう一軒。それも、前2回と同様の店『南口やきとん』へ入店。わざわざ藤沢で焼きトンか? とも思うが、若い人達で切り盛りしていて活気と元気のいい店だった。しかし、店長が変わってしまったようで、1年前とは少し様相が変わっていた。何となく勢いを失っている感じがして、寂しかった。そして、串ではなくハツテキをなにを間違えたかたのんでしまい、そのかかっている油にやられた。レバテキと同じ、ごま油塩が、あまり食べつけない自分には無理があったようだ。
そして、酔っぱらった勢いがあったのか、藤沢の駅でアジ鮨の折り詰めに目が釘付け状態になり、おみやをご購入となった。

↑しっかり酢でしまった、アジと酢飯のハーモニーにやられた。冷やした日本酒のつまみに最高と帰ってからも飲み続ける事になってしまった、湘南鎌倉『大船軒』アジの押し寿司。
iPodで、桑田さんの曲をご機嫌で聞いて帰り、帰宅後アジ寿司つまみに日本酒を締めに飲んだ。心のままに、飲んで食べた夏の一日だった。(8月10日)