名匠・成瀬巳喜男〜庶民の哀歓を描き続けた①

movie_kid2012-06-07


『夫婦』監督:成瀬巳喜男
浮雲監督:成瀬巳喜男

銀座シネパトスの名画座特集の2本立上映。先日の日活ロマンポルノ特集をきっかけにして、60,70年代の日本映画に興味を持ちはじめた矢先、人から50年代の成瀬巳喜男(みきお)監督もいいぞとチラシをいただき早速、観に行ってみた。
モノクロームの光と影の瞬き、50年ほどの年月をやすやすと飛び越えて当時の日本に放り込まれる感覚。的確で、シンプル、力強さまで感じるほどの演出と男と女の心の機微が映し出されていた。
『夫婦』は、題名そのもので当時の一組の夫婦の有り様を描いていた。夫婦と親兄弟との関係、転勤による住宅問題のため夫の同僚のやもめ男との同居など、夫婦と他者とのふれあう関係と何より夫婦という他人同士の男と女の関係が細やかに、現在から見るととてもしっとりと描かれていた。
対して、戦中、戦後にかけてが舞台の『浮雲』は、戦争をはさんだ女と男の闘いの映画だった。日本進駐軍の南方赴任先で不倫関係になった男女の戦後まで続く道行きの愛憎劇を描いていた。メロドラマでありながら、人の生き死にぎりぎりの戦争の混乱の世のことだから、半端ではない。生きるために必死だからこそ、女は男を求め、男は女を手放すこともせず不可解な関係を続ける。人生をかけたその行き着く先も信じられないのだが、それにしても、戦争をくぐり抜けてきた人間の強さ、バイタリティーを恐ろしいほどに感じる映画だった。