おしゃれな“自由が丘”に昔ながらが健在、ウナギ串焼き『ほさかや』

次の仕事につながるようにと事務所を退職した挨拶のメールを、過去に仕事で関係があった方々に出していた。お互いに頑張ろうと暖かい返信をもらう中で、長く仕事をした出版社の同期入社だったK藤さんからも優しい言葉を頂いていた。近々、飲みましょう、連絡入れますとメールの終わりに書かれていた。それから1ヶ月がたち、現在フリーランスのライターであるK藤さんには、仕事を紹介してくれる可能性もあるので、向こうから連絡くるのをおちおち待っているわけにもいかない。連絡を入れてみるとちょうど明日、原稿を入校すればひと段落するので、飲みましょうと返事が帰ってきた。
こちらは、いつでもいいし、どこにでも伺えますのでといったら木曜日“自由が丘”なら店も多いし来てもらっていいかなと、話は決まった。

↑自由が丘の駅すぐのスターバックス先のこの通りと右側の一角が、おじさん好みの店が集中しているエリアのようだ。焼きトンも焼き鳥も仲良く店を連ねていたが、断然、ウナギの『ほさかや』に入ってみたい。

下町に住んでいる側から見れば、皇居を中心に反対側になる東急沿線だが、日比谷線を使えば乗り換えなしに行けそうだ。しかし、あからさまに言ってしまえば、貧乏地域から対局の金持ちエリアに遠征しに行くような心細さを感じる。それを証拠に少し自由が丘駅の周りを歩いてみたら、そこらにベンチが設置してあり、特にマリクレール通りと名前の付いた並木道などは、公園と錯覚するほど沢山のベンチが連なっていた。誰でも自由に街中でくつろげるようにしているのだろうが、これが他の地域だったら、どこからともなくやって来てすぐに、そのベンチに住みはじめる奴らに占拠されてしまうだろ。
なにかきっかけがないと“自由が丘”で飲むことなんかはないだろから、楽しみではある。若者や女性に人気の街に安い飲み屋といったらチェーン店ぐらいだろうし、後は、おしゃれなで気取った店になってしまうのではといぶかった。ネットで事前に調べてみたら、駅の近くにおじさん好みの飲み屋の一角があるようだ。おぉ、そこにウナギの串焼き専門店があるではないか。ご飯類は、昼のみで夜は飲み屋の営業となるようだ。新宿・思い出『カブト』と同じように頭からしっぽのヒレまで全部が食べられる店らしい。中央線沿線、中野と荻窪にもウナギの串焼きを食べて飲める店があるが、“自由が丘”にもあったのかと大発見にほくそ笑んだ。

東急東横線大井町線の交わる自由が丘駅。2日も通うことになるとは思ってもみなかった。

当日、少しはやく“自由が丘”に来て駅周辺を散策し目指す『ほさかや』の場所も確認した。駅からもすぐ近くで、看板にキンミヤ焼酎の名前をかかげている、素晴らしい。K藤さんが、この店に行こうと言うかどうかわからないが、店を決めていなければ、ここを一押しにしようと思った。
駅正面口の改札前で待っていたが、約束の18時を過ぎてもなかなかやってこないので、5分ほどすぎたあたりで携帯に電話入れてみたら、な、なんとK藤さん打ち合わせ真っ最中で約束を明日の金曜日と勘違いしていた。すでに現地には来てしまっていたが、時間をずらして待っているのもつらいしすぐに終わりそうもないようで、明日に変更することにした。このまま、ひとり飲みでもいいが、明日も来るのだし、なんだか疲れてしまった。
翌日、平謝りのK藤さんがやってきた。どこか、飲む店を決めていますかと、さっそく聞いてみたが、ないようなので見つけていたウナギの『ほさかや』に行くことにした。入り口の横に焼き台があり、コの字型のカウンターのみの簡素なつくりがなかなか良いぞ。奥に進められるままに座り、ビールに、串焼き一通りくださいとたのんだ。

↑勢いで一通りを頼んでしまったが、ひとり飲みで来たなら2本ずつぐらいで焼きたてを食べた方がよいと思った。小さいお新香も箸休めにぴったりだったが、上新香もたのめば良かったな。

↑釣りも食べるのも魚好きのK藤さん、やっぱり指摘してたが、圧力釜で骨を柔らかくしたエリより、生から焼いた方が絶対旨いのにと。その堅エリを食べられるのが、新宿・思い出横丁『カブト』だ。

圧力鍋で蒸して骨を柔らかくしたエリ、しっぽのヒレ、キモ焼き、蒲焼き串の4本がタレで出て、あと塩焼きはわさびが添えてある5本セットで、ひと串が大きくボリュームがあり食べごたえ充分だ。
金宮焼酎は、コップになみなみと受け皿までいっぱいに注いでくれた。梅の天羽シロップは置いてなくて、お湯割か、ロックだとジョッキに氷を入れて渡してくれる。炭酸もないが、氷だけでもかなり飲みやすくなる。

↑見るからにたっぷりと注がれた、金宮焼酎。焼酎に味があると、感想を漏らすK藤さん。さすが、わかってらっしゃる。

↑ジョッキーのロック飲みも珍しいが、コップをそのまま大きいジョッキーの上に持ち上げてこぼし入れる利点があった。

K藤さんとは、2人がいた出版社のOBや現社員も含めた忘年会なんかで時々顔をあわせていたが、2人で飲んだ記憶も思い出せないくらいのご無沙汰だった。ウナギ串を食べ、焼酎をすすりながらつもる話に盛り上がる。少々、構えてやってきた“自由が丘”だったが、この店は今のおしゃれな街のイメージとはかけ離れ、何とも落ち着いて飲める店だ。昔ながらの店も残っている“自由が丘”を見直した。ふと入り口を見ると、満席で待つ人も出て来た。ビール2本と焼酎を1杯飲み、ちょうど2人とも串を食べきってしまった。焼酎は飲みたいが、追加のウナギを頼む感じでもないから「待っている人もいるので、出ませんか?」と言ったら、K藤さんはもう家に帰ると勘違いしたようだ。人気店では、長居は無用の癖が出てしまったが、僕はもっと飲みたいですよ。

↑満席で入れなくて、店の外で待っている常連さん。長居をしては、申し訳ないよね。安くて、気分よく飲めました、大正解の『ほさかや』ウナギの串焼き屋。

行き当たりばったりに、ウロウロして見つけた立ち飲みでウィスキーのハイボールを2杯飲み、成り行きで本当に帰ることになった。時間的にはかなり早上がりだったので、地元でもう一杯仕上げのひとり飲みの気分をぐっとこらえることが出来たのは、今だまったく動き出さない仕事のことがあるからだけでなく、日比谷線三ノ輪駅近くの行ってみたかった煮込みの店が、意外に早く店じまいしていたからだった。

↑3種類のワインをテイスティングするように飲んでる客もいた、洋食系の立ち飲みだった。つまみもたのまずにジャック・ダニエルのハイボールを2杯だけ飲んで帰ることになったが、K藤さん、立て込んだ仕事のあとでお疲れだったのかな。