君を想って海を行く

movie_kid2010-12-25


イラクからの難民の少年が、イギリスを目指し陸路でフランスまで来て海峡に立ちはだかれた。船による密航も失敗、後は泳いで渡るしかないか。こんな嘘の様な話を軸に、泳ぎをマスターするために行ったプールの元金メダリストのコーチと出会いから物語が転がる。そんなプロット(物語の筋、構想)だけを予告編で知って、今年最後の映画として観に行った。
この映画がよかった。この17歳の少年は、単に無謀なだけではない。一足先に家族でイギリスに移住していった少女が恋人で、足が早くサッカー選手を夢見ていながら戦争に退廃した生活に追いつめられて故郷を後にしたのだ。自力ではるばるフランスまで来たが、難民の現実は死を意識せざるをえないくらいに厳しかった。フランス政府は、難民対策にイラクから来るクルド人の手助けする事を犯罪として、ボランテアに神経を尖らせ、援助する行為そのものを実刑を科す犯罪として取り締まっている。
元金メダリストだが、しがないプールのコーチに甘んじてる中年の男が、泳いで海峡を渡り恋人のいるイギリスに行こうと下手な泳ぎの練習に来た難民の少年と出会うことで変化する。このコーチも人生にくたびれ、愛する妻との結婚生活も破綻しかけて崖っぷちにいた事で、この少年にぐんぐん肩入れしていくのだ。お互いに崖っぷちにいながら、まったく状況も違う二人が出会い物語が進むあたりが、ドキュメントの現実と映画としての魅力のバランスが凄く良い。
結果的に厳しい現実に当事者達は涙もでないショックを受け、観ているこちらははらはらと涙を流すのだった。フランス映画らしいシャープな切れ味と音楽のセンスも良く、素晴らしい秀作だった。