おごられ飲みは、渋谷で


↑「今年も鴨鍋始まりました」この葉書が来ると毎年少し、心が乱されていた。
ちょっとした事だったが、お礼に一杯おごってとかみさんに言ったらしぶしぶ了解した。自腹でないなら、ちゃっかり鴨でも食べようと渋谷に行く事にした。とは言っても、のんべい横丁。今時の渋谷っぽくはないが、新宿と比べたらどう見ても渋谷らしい横丁。以前、たまたま入った中程の『やさいや』から、いい感じの野菜イラストが入った葉書が来るようになった。「今年も鴨鍋始まりました」と、秋風が寒くなり始める頃合いに届く。横丁らしい極狭のお店で、2階に座敷があり前回は律儀に予約したが、カウンターでもいいからと直接行ったのが間違いだった。予約のみの方式になっていて、あえなく不可。渋谷は不慣れで普段は映画を観にくるだけ。映画が終わるとそそくさと街を離れる始末なのでほとんど飲んだ事がない。焼き鳥なら知っていた、森本に行こう。鳥専門だから、季節的に鴨も雀だってあるだろう。

↑昼を過ぎれば、もう、人で人で溢れかえるスクランブル交差点。日が暮れるとますます何が何やらわからないくらいに。

↑とてもじゃないが、渋谷では駅や道ばたで待ち合わせが出来ない。待ち合わせに決めていたビア・パブは何と来週からの開店だった。仕方なく駅に戻る途中、山手線のガード下にコーヒーやらビールも出すお店を見つけ、ラッキーに黒ビールを飲みながらぼんやり待っていた。

↑のんべい横丁。雰囲気はいいのだが、あまりにも小さいお店ばかりでどこに入ればいいかが、わからないのが難点。
井の頭線の駅自体が、今は大きなビルになっているが、その足下的なところにある『森本』カウンターとテーブル2席のごくごく昔ながらの焼き鳥専門店。大降りの串で、ここの日本酒『喜久水』が旨いんだった。

↑安い店ではないけれど、高級路線でもなく、標準的に良い焼き鳥屋の見本的なお店。英語入りメニューもあり、外国のお客さんも大丈夫だ。

↑化学の実験でおなじみのフラスコで、燗酒をコップ表面張力一杯、なみなみに注いでくれる。受け皿なしで一口目が緊張する。

↑鳥刺しの下にしいている茗荷のみじん切りが有効だった。もちろん、鳥刺しは旨い。

↑つくねも大きい。生卵の黄身付きが確か定番だったが、頼み忘れてしまった。

↑これはハツ。つい、お好みで頼んでしまったが、二人でだったら、いろいろまぜたコースを半分ずつで食べるのが良いかも。但し、取り分でもめない恋人同士のだったら良いが、熟年夫婦では喧嘩の元でやめた方がよいかな。

↑ナンコツも肉がたっぷりついて旨味もある。

↑思い出横丁『ささもと』の茗荷肉巻きが絶品だが、茗荷味噌焼きもなかなかいける。
燗したコップ酒が、くいくい進む。二人していい調子になって来た所で念願の鴨を頼む事にした。
「かも串二本、ください」
「ま、がもですか?」と念を押された。
「これです」と、メニューの木札を指差した。
時価ですから、今日のは一串2,200円ですよ」
絶句、とまでは行かないが、確実に一瞬酔いが引いた。
「大串ですので、半分に切って二人で充分食べれますよ」
主催者のかみさんを見ると、かなり酔いがまわっていると見えて、行ったれと合図をしてる。

↑問題の真鴨です。なにも、言う事はありません。

↑しいたけ、でっかいのが半生で来た。確かいい椎茸は生でも食べれるとテレビで見た気がする。それに近いかも。

さて、やって来た鴨串の半分に切られた切り口は、紅く小豆色で、脂身から血のにじんだ脂がたっぷり流れている。そばに入れば、そのお汁を全部飲み干したくなるほどの旨味のエキスが爆弾のように固まりになってあるのだ。
味の方は、もう言うまでもないし、お会計も二人で8千円どまり、おごられ飲みとはいえ胸を撫で下ろした。ごちそうさま。