2012年映画小僧の10本の映画
やっぱりというか、あたりまえというか、12年度の後半に観た映画の感想をアップできないでいた事が、年間10本を選ぶ事にも影を落とした。感想を書きアップする事が少なからず自分の考えをまとめることにつながり、それを怠っていた訳だから年間を通しても当然のように考えがまとまらない。
例年は、新作のみの10本選出だったが、混乱のまま新作5本、旧作5本で選んだ。
年間で61本を映画館で観た事(別の日に同じ作品を観た本数を含む)は、自分でも驚くほどだったが、特集上映の旧作も多く含まれているので、その辺りも踏まえ新旧を観た1年といった全体的な総括でそのように選ぶことにした。
『007 スカイフォール』[監督:サム・メンデス 出演:ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム]
文句なしに楽しめた。それも、たっぷりと最初から最後まで長い上映時間にもかかわらずに。映画だからこその007シリーズで、長年積み重ねられた作品数が、いい意味でバックボーンとなり制作者側の意気込みも強く、本当に楽しめた。
『ドラゴン・タトゥーの女』
[監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:ダニエル・クレイグ]
ツェッペリンの楽曲から怒濤のごとくはじまりながら、ぎっしりとつまった物語を見事に紡いでゆくあたりに、ため息と上質の映画を味わった。007も含め、ダニエル・クレイグの大当たりの年。
『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
[監督:ヴィム・ヴェンダース 出演:ピナ・バウシュ]
すでに亡くなっている天才ダンサーの凄さもさることながら、それを受け継いだダンサーと生存中からその素晴らしさを映画として成立させようとした監督の思いたけを3Dという技術でもって昇華させたアートな映画。ダンスというものにとらわれない大きさに、こころ揺さぶられ、涙があふれた。
『裏切りのサーカス』
[監督:トーマス・アルフレッドソン 出演:ゲイリー・オールドマン]
007と、同じ英国の諜報部を舞台にしながら、ここまで違う映画になってしまうのかと驚くが、地味なこちらも相当面白かった。あのゲイリー・オールドマンとは、思えない演技がいぶし銀に輝いていた。
『私が、生きる肌』
[監督:ペドロ・アルモドバル 出演:アントニオ・バンデラス]
想像以上に、混乱する映画だった。とんでもない話に、リアルな表現と美がある事でますます混乱しながらも惹きつける映画だった。美のセンスの質が高い分、その毒気も強烈だった。
『ディア・ハンター』(78年)
[監督:マイケル・チミノ 出演:ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン]
70年代後半に撮られた、ヴェトナム戦争にアメリカの片田舎から従軍した若者達の映画。製作の2、3年後の日本でのロードショウではじめて観たが、アメリカ兵の若者達と当時、同年代の自分には衝撃だった。年月を経て、観なおしてもその空気感が薄れないでいるし、賛否はあったとしても名作だと思った。
『ツィゴネルワイゼン』(80年)
[監督:鈴木清順 出演:原田芳雄]
とうとう、映画館で観る事でこの映画の凄さにふれた。原田芳雄を始め、俳優たちのほとばしる個性と監督の美意識で、奇跡的といっていいほどの斬新で今までにない日本映画だった。同時期に観た、松田優作の『陽炎座』も同様にゾクゾクした。
『幕末太陽傅』(57年)
[監督:川島雄三 出演:フランキー堺]
川島雄三監督を、この作品ではじめて知る事となった。映画の舞台の江戸時代末期、映画製作の昭和、今の平成、時代と日本人を見つめなおす事のできる映画だった。亡くなった藤本 義一著書の『川島雄三、サヨナラだけが人生だ』を同時に読んでますます、この監督に興味が湧いて来た。
『赤線・玉ノ井 ぬけられます』(74年)
[監督:神代辰代]
日活100周年企画のロマンポルノ版の特集上映で観た7本のうち、神代辰代監督が4本。名作『赫い髪の女』も含まれていたが、売春防止法施行前の変貌する時代の中で、おおらかさとかわいさを持ち合わせた女たちの姿が、活き活きと描かれていたこの作品に惹きつけられた。30作品上映されたこの企画だったので、7本観たぐらいでは何も言えないが、神代辰代監督がポルノだけでなくその後の邦画に、相当影響を与えた事がわかる。
『浮雲』(55年)
[監督:成瀬巳喜男 出演:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子]
銀座シネパトスの特集上映で、計6本の成瀬巳喜男監督の戦後の作品を観た。その中の代表として『浮雲』を選んだのは、戦後すぐの時代背景で敗戦によってまったく価値観は変わり心が折れてしまいながらもたくましく生き抜いた昭和人の女と男の物語が、衝撃的だったから。生まれも育ちも戦後の人間には、想像を絶するバイタリティーとロマンを持ち合わせていたんだなと感嘆した。