寂しい思いで、ひとり飲みもあるのだが

四国出張の時、その旅先で昨年の夏までいたデザイン事務所社長の訃報を聞いた。2年間、一緒に仕事をさせてもらいとてもお世話になった。そもそもは、出版の世界でデザインの仕事をはじめた時からの知り合いだった。僕が出版社に入ると、元漫画家でありイラストも描ける万能デザイナーで各社掛け持ちしてバリバリと仕事をこなしてた。先輩であり、兄貴のような存在だった。そのころから映画を観はじめた僕に、こんなのもあるんだよとホラー映画を教えてくれたホラーマスターでもあった。ほかのジャンルの映画もたくさん観ていたし、仕事で装幀をしながら自分でもたくさん本を読んでいた。スティーヴン キングの本も薦めてくれたっけ。

↑午前中は、ひどい雨降りだった。日比谷の映画館を出たら、どんより曇り空ながら雨が上がっている。どうしようかなとの迷いはあったが、地下鉄に乗って新宿に向かった。

昨年、還暦を迎えたばかりでまだ若い。事務所の先頭に立って週刊誌の表紙や数々の本の装幀のデザインをしながら、社長業も同時にこなしていた。ガン発覚と手術、その後の復帰、そして再発しながらも前向きに昨年末まで事務所に出社して仕事を続けていた。
出張から東京に戻り、通夜と告別式の2日参列することができた。多くの関係者や付き合いのあった方々がたくさん来ていたが、誰もが亡くなったことを信じられないといった面持ちだった。
家族の方々の悲しみは、察して有り余るものだろうと思われる。身内や血縁の方々とまた、少し違った感覚で、自分の人生としっかりシンクロして長い時間を共有してきた人の死のつらさを今回は、痛感した。
事務所を離れてからの半年ほどのブランクが、よけい亡くなったことをうまく受け入れられないでいる。もうこっちにはいないんだと無理矢理にも思うようにすると、そこに喪失感を強く感じた。
なれない出張から、この葬儀に参列して心底、疲れ果てた。
出張後のばたばたで、2週間ほどは疲れも癒えないままだったが、やっと土曜日に映画を観に行った。元気も出ぬまま不用意に“ひとり飲み”をしても気が滅入るばかりかなと思ったが、例のごとくふらふらと新宿・思い出横丁『カブト』で昼酒を飲むことにした。

↑『カブト』では必ず、奥さんはどこか(コーラスで歌いに)行っているの聞かれる。寒いのに今日は、実家の檜原村に帰ってますと答えた。実は、僕も誘われたけどちょっと行く元気がなかったのだ。
店に入れば、ここはだいたいが高齢者のたまり場だ。焼き台に立つおやじさんだって、飲みにきてる客だって遥かに大先輩の方々だ。そんな人々で支えている店は、どこか達観した雰囲気がある。誰だって長く生きてくれば、悲しい別れや寂しい思いをくぐり抜けて来ている。景気が悪いとか、政治が悪いとか、ぶちぶち言いながらもここに旨いウナギの串焼きを食べたくてきて、一杯やっている。そんな中に混じって飲んでいるだけで、少し疲れが取れた心持ちになった。

芋焼酎を3杯、追加の丸塩(マルシオ)まで食べると何だか元気になったのか、それともただ酔っぱらってきただけか。