節分で、鬼はそと、酒はうち!

月刊誌のデザインをしていたときは、月サイクルで忙しい山とヒマな谷が来て気持ちの上で生活のリズムをとりやすかった。その後、デザイン事務所に入って雑誌や単行本などいくつか複数の仕事を受け持っていたので、なかなか気が抜くことができず少々苦しい思いをした。
今の仕事は、通販カタログの春号や夏号と季節ごとに冊子をつくるサイクルで、あいだに春夏号やダイジェスト版などの変更版などもあり制作期間が重なりあって緩急の具合が見えて来ない。ディレクターをしている訳でなく、補佐的なデザイン業務なので気楽にいられるけれど、納期厳守で、やっぱりいつも締め切りに追われている。

↑深々と冷え込む寒空の中、ほのかな温かさのオーラすら感じる思い出横丁。

↑シルをすすりながら食べる『ささもと』の煮込みに、ほっとする。

そんな一週間を走り続けた金曜日、データを印刷所にアップしてしまえば明日からの土、日曜日はお休みとなるので早く終わらせ飲みに行きたい。送信データ数のカウントの遅さにイライラしつつも21時すぎてやっと送り終え、築地どなりの新富町の事務所から放免された。
腹も減っているし、週末だから酒も飲みたい。かといって近くの銀座に飲みに行きたい店など見つけていないし、安くないだろうからこの先も無理だろう。行きたかった北千住『おおはし』へは日比谷線1本だが、閉店にぎりぎりまにあっても刺身や照り焼きもないとなると寂しい。この疲れた身体とこころをてっとり早く癒してくれるのは、新宿・思い出横丁しかないだろうと冷え込みの厳しい夜道を地下鉄の入り口を目指して急いだ。
新宿西口の人の多さも今夜のところはこれから飲みに行くからか、人々の喧噪が不思議と温かく感じる。せまい横丁の赤提灯や店の灯りもほのかに温かく、目指す『ささもと』に向かう。ラッキーにも煮込み鍋の前にすぐに座れ、目の前で皿に取り分けてもらい串の煮込みを食べてビールで流し込む。旨い。

↑さてさて、なにから食べようか。

↑カシラは、煮込み鍋にホンのちょっとつけただけ、しゃぶしゃぶ的な火の通し方で。

↑焼き台にのせ小さいやかんで燗つけする日本酒も寒い時期には良いのだが、酔い加減も含めつい金宮焼酎にしてしまう。

↑久しぶりの『ささもと』だが、お気に入りの“フワ”あった。もちろん塩焼きでさっと焼いてもらうと、外はぱりっと中は白子のような、まさに、フワっとした食感。

新宿に近かった前の事務所からは、晩飯を食べそびれた金曜日の遅めによく『ささもと』に来ていて、おやじさんにも何となく覚えられていたが、妙な馴れ馴れしさがないのも新宿らしくていい。「旨いものなんて、もう食いたくない」と、相変わらずあまのじゃく風の物言いとは裏腹にせっせと焼いているおやじさんを若い客達は面白がりつつ、旨い焼きトンに驚いている。
焼き台や煮込み鍋が、近くにあるとはいえ夜のこの季節で外とさかいのない吹きっさらしのカウンターに座っていると寒くはあるが、飲んでる酒の力もかりつつ店の温かい雰囲気というか居心地の良さに気にはならない。それにTシャツ一枚きりで焼いているおやじさんの勢いに、パワーをもらえる感じだ。

↑野菜巻きにいきます。スナップえんどう。

↑茗荷の肉巻き。

↑こりこりとナンコツの“たたき”

↑奥の客が注文していた“たらの芽”に、すかさず相乗りした。これが旨い。今時の野菜に季節感は薄いが、それでも苦い味わいの先に春の気分がしてくる。

↑タンを味噌で。

↑先日、徳島から東京に戻っていたK西さんにお土産としてゆず酢をいただきその存在と旨さを知ったばかりだが『ささもと』おやじさんが味付けのアクセントとして使っていた柑橘の汁がゆず酢だった。前から気になっていた柑橘の味だったのだが、ゆず酢だったとは驚きだ。テッポウのような脂っこい部位もゆず酢の一振りで俄然、さっぱりとして旨くなる。

↑〆は、キャベツが定番。

↑そして、最後にサービスのスープ。ゆず酢をふってもらいたいときはおやじさんの場合なら『変なスープにして』と、言えばいい。

最近は、桜台『秋元屋』の焼きトンにこころ奪われてはいたが、やっぱり『ささもと』も忘れてはならない存在で、ひとり飲みなら更にいい。焼酎3杯飲んだ勢いで、この後『みのる』にまで行ってしまうが、お通し以外にさりげなく節分の豆が出てきて嬉しかった。まだまだ寒いけど、春はそう遠くないのかなとハイボールを飲みながらそんな気がした。

↑思い出横丁のなか通りから、ガード側に出て当然の様に地下『みのる』に足が向かう。

↑途中から隣にひとり飲みの女性が座り、何かと話したそうにしているがとても面倒くさかった。容姿や年齢や人柄なんて関係ない、こちらは酔いに身を任せ、さざ波のように感じる店の雰囲気に漂っていたいだけだった。話題をふってきなさいと詰め寄られるのは勘弁願いたい。と、ひとり飲みの女性に思うのは変かなぁ。

↑節分の豆を齧りながらハイボールを飲み、春はまだかなと思うだけで良いのだ。