文化の日、合唱とオーケストラの演奏会、の前に。

かみさんは随分前、高校生の時から合唱をやっている。よくもまあ、20年以上も続けられたものだが、これも一緒に歌い続けられる仲間に恵まれたのだから幸せなんだろう。一番長く参加している女性合唱団も、団員の入れ替わりで若返りも激しいらしくまだ学生の二十歳そこそこの若い子と一緒に歌っているようだ。
かみさんの高校の先輩だった音楽家松下耕氏が指揮者生活25周年記念で自ら作曲した曲を、パイプオルガン、東京フィルハーモニー交響楽団、そして常任指揮している合唱団9団体の『耕友会』メンバーによる共演で、なかなか大々的なものらしい。オーケストラの演奏会、生で聞いた事もなかったのでこの機会にと出かける事にした。

東京マラソンの第一回、曙橋の上から靖国通りを人が川の激流ようにどどどと、走り抜けるのを見た事がある。車が通るイメージしか広い道路にもっていなかったので度肝抜かれる感じがした。歩行天も普段の車優先イメージからはなれ、非日常的で結構好き。ゾンビの街はこんな感じかなと、のんびり歩く人々をゾンビとだぶらせて見て楽しんだり。
新宿文化センターで夕方からの開演だから、少しお腹に入れるため新宿のどこかで軽く一杯やってから行こうとそんな算段ばかりが頭に浮かぶ。長く剣道の月刊誌の仕事をしていた関係から、毎年文化の日日本武道館で行なわれている全日本剣道選手権大会をずっと見に行っていた。昨年は、もうその雑誌をデザインする事もなくなっていたが習慣で何となく武道館に行ってしまったが、今年はがらりと趣向が変わり音楽の文化の日になった。それも一杯やってから行こうと言うのだから気楽なものだ。
新宿と言えば、何も考えなければ自然と西口・思い出に足が向いてしまうが、今日は方向的には、新宿三丁目だ。普段は車に追いやられてる新宿通りを、歩行者天国だったので堂々と真ん中歩いていたらすぐに三丁目まで来た。寄席の末広亭の通りに、日本再生酒場と称して、焼きトンの『い志井』立ち飲み店がある。丁寧な仕事で出す焼きトンも美味しので何度か来たが、値段も手頃人気店になり近くに数店、新宿以外でも支店が出来るぐらいになった。ここもいつも満員、いっぱいで入れずに足が遠のいてしまった。
新宿文化センターに行くのも近いので、久々に行ってみようとしたがまだ3時前で開店していなかった。三丁目界隈もここに来て、新しいお店がどんどん出来ているようでシネコンのバルト9や相変わらず人気の寄席に人が押し掛けたり、結構、賑わっている。

↑この蒼い装幀の本の著者、ポール・オースターの書く物語は、何でもないようでいてとても引きつけられる。先を先を読みたくなり、その先に元来人の持つ哀しみが表現されていて気持ちを揺さぶられる。本を読む楽しみを、新作が出るたびに感じさせてくれるのだ。
チェーン店だが、アイリッシュ・パブ的な『82 ALE HOUSE』には、大のビール好きの同級生が東京に遊びに来た時に永遠とビールを飲み続けた事がある。道にはみ出してテーブルがあるので、店ん中よりとても気分良く、二丁目あたりから出張して来たオカマちゃんやモデルと飲んで来たアラーキーが酔っぱらって写真撮り合ってたり、新宿らしい猥雑とした通りの雰囲気を楽しみながらよく飲んだな。ビールも旨くて飲み飽きなかった。
今読んでいる『オラクル・ナイト』ポール・オースター著に完全にはまっていて、この蒼い装幀の本とパブと生ビールのバス ペールエールが妙にお似合いで、30分間の心地よい読書が楽しめた。本場からちゃんと樽買いしているのだろうか、ややブラウン系の生ビール香りもよく旨いな。もう一杯飲んで延長したいが、少し身体が冷えて来たので立ち飲み焼きトンに行くか。

↑ななめ向かいにも、通りひとつ違いでも支店があり、店ごとに個性を出して人が入っているようだ。久しぶりだし、立ち飲み一号店に直行。

↑燗つけは、徳利をお湯の鍋にいれ温度計を差し込む。きっちりのやや熱めの燗で、間違いはない。お通しのキャベツ、きゅうりもみはニクニクのなかで少量でも良い仕事してくれる。

↑2本止しのベーコン風は、やや脂っぽいが柚子胡椒できっちりカバーしていた。

↑タレは、やや甘め。一本で十分かな。
さすがは人気店カウンターほぼ満員だったが、少し詰めてもらえばうまく入れた。こんな所も立ち飲みならではの利点。燗酒にして、一人前5本おすすめを焼いてもらう事にした。3本が塩、1本が柚子胡椒、1本がシロのタレ焼きだった。塩焼きが多めなのも肉に自信があるからだろうし、酒のつまみには、バランスがとてもよろしい。その後、違った感じのものにしたかったので、チレを醤油焼きにしてもらい、野菜のししとうと椎茸も焼いてもらう。

↑チレは、いけます。ししとうの焼き加減も素晴らしい。

↑椎茸には、軽く醤油を絡ませ塩梅もいい。

そうそう、ここのチレは間に少し脂身がはさまれていてコクを出し、生の醤油が相性抜群。とっさに口に出たのが大正解で、自覚はしていなかったが頭のどこかで覚えていたようだ。
ここに来てだんだん秋の気配で、つるべ落としの夕日と朝晩の冷え込みも感じて来てことのほか、燗酒が優しく美味しく感じる。焼きトンと燗酒もたまにはいいもんだと堪能していたら、あ、そろそろ行かないと演奏会に間に合わなくなるか。