年末、大阪途中下車と和歌山で母とふたり飲み

例年通り正月は和歌山へ帰省したが、大阪で途中下車飲みを楽しみに、年末の仕事を乗り切った。大げさに言うほどのことではないが、自分へのささやかなご褒美だ。
ひと月前からこの日のために新幹線の指定席を取り、心待ちにはしていた。道中、読む本なども吟味して持参してはいたが、見慣れた東海道新幹線の車窓でも一年ぶりだからか、ぼんやり見ているだけで飽きてこない。秋から公園の野外飲みで焼酎お湯割りに重宝したステンレスのポットを持参し、東京駅のコーヒーショップでドリップしたてをたっぷり2杯分を入れもらう。流れる風景を、コーヒーを飲みながら楽しんでいるうちに新大阪に着いた。
和歌山に行くなら特急『くろしお』に乗り換えるが、途中下車でひとり飲みを楽しむため、大阪に出て環状線新今宮に行く。

↑以前は、東京←→和歌山間の通り過ぎるだけの大阪だった。気に入った飲み屋を見つけただけで、途中下車が楽しみとなった。一杯やるのを優先して、まだ、登った事がな通天閣
天王寺に続き、この辺りもそろそろ再開発の波が押し寄せているようで、地下鉄『動物園前』の入り口が大きな更地になっていた。ジャンジャン横丁まで行くと、やっぱりごちゃごちゃとした新世界の街並で、人気の串揚げ屋には待つ人でごった返していた。向こうから、赤いスカートをはいたおっさん(?)が、やって来てすれ違う。なにわっ子たちも「ぎょっ」としてるが、大げさには反応しない。新世界らしい出迎えの仕方かといったら怒られそうだが、初っぱなから大阪は飽きさせない。

↑バリカンでの短い坊主刈りのため、洗髪とひげ剃りいれて1,100円のお値打ち価格。昨年に続き、ジャンジャン横町のアーケードを抜けた散髪屋で、さっぱりと。

通天閣のすぐ横の銭湯が、昼間から営業していて重宝する。散髪の後に、ひと汗流しついでに1年分の垢も落とした気分になる。それにしても、何故だかリメイクの新作映画『東京物語』のポスターがベタベタ張られているのが、この地が大阪だけに場違いではないのか。

まずは、ジャンジャン横丁で散髪をしてすっきりとしてから、通天閣の足もとの銭湯で全身さっぱりしてお待ちかね、一年ぶりの平野屋に入る。外から見ている分には、いつも客でいっぱいで、中に入ってもカウンターには隙間なくおっさんたちが肩を並べている。
店のおにいさんが、入り口のところをつめてあけてもらうか、奥も入れるよと気安く声をかけてくれた。躊躇していないでずんと奥へ入り、するりとカウンターに入れてもらった。入り口際もいいが、生ものコーナーからは遠くなり、つまみを選ぶのにやや不便だ。えいっとばかりに奥へ入ったら、ちょうど魚のおろしている最中だった。店のおやっさんは、大きな寒ぶりとメジマグロ(関西で言うヨコワ)に格闘しつつもさすがは商人(あきんど)の街で、常連客の話にもつき合いつつ新参者の注文も気にしてくれる。

↑さて、飲むぞと『平野屋』の前まで来たが、風呂上がりで、なおかつ暖かい日で上着を着たままでは汗が止まらない。折り畳んでバックに入れ、いざ入店。

『平野屋』は、大阪のおっちゃんたちがいつも沢山肩を並べていて風格があり、どうしても東京ものは、肩身が狭く感じるけれど、店の接客はかなりソフトだ。
クリスマス寒波からの全国的な冷え込みで、大阪も寒いだろうから燗酒から始めようと思っていたが、今日は妙に暖かい。昨日の雨から一転、晴れて陽もたっぷりと降り注ぎ風呂上がりにまだ汗が滲んでくるくらいだから、ビールからの飲みはじめにした。
そのビールの一杯目がうまいこと。今日から正月休みで、しばしの解放感をこの一杯のビールから味わう。

↑暖かい陽気と風呂上がりと開放的な旅行者気分とで、最初の一杯のビールがことのほか、旨かった。ヤリイカの酢みそがけもいける。
もともとが関西出身だから、すでに普段の東京での言葉から関西弁に入れ替わりつつある。
「いま、おろしてるのん切ったら、こっちにももらえますかぁ」とか、おっちゃんたちに混じって気軽に関西弁が口から出はじめている、いい感じにリラックスしているようだ。
魚をおろしているのだから、それなりに魚臭く、血の臭いが鼻にもつくが、もともと新鮮な魚を扱っていて人気のお店で、そんな中で食べてもおろしたてのぶりは、やっぱりうまかった。早々にビールから燗酒にかえていい感じに酔いもまわってきた。
魚のおろすのも終わり、こんどは煮魚のカレイを鍋から小皿にとりわけ始めたので、見たら即反応してしまい「そのカレイ、もらえますかぁ」「あい、よ」ってな感じがいいんだな。そうそう平野屋は、煮物系もうまいんだ。ぶりをおろしている時も、残った骨を見た客から「ぶり大根、いつ食べられるんやぁ」とすぐに声がかかっていた。

↑「冬は、寒ブリやねぇー」といいながら店のおやっさんは無造作に魚をおろしているが、さすがに年季が入っている包丁さばきだ。造りたては、やっぱり、旨い。

↑身の厚いカレイの煮付けが、目の前で器に盛りつけされていたら「これちょうだい」と、反射的に、口に出していた。

↑生もの以外の陳列ケースは、遠くて確認できなかったので、無難にポテサラを注文。

↑瓶ビールに燗酒は4杯で、時間が許せばもう一杯飲みたかったのだが。

↑外で、上着など来ていたら、隣で飲んでいたおっさんも出て来た。さっき飲みながら二言三言、話しただけだが「ひさしぶりに、人と話して飲んだわ、おおきに」と、言い残していった。しめ縄を見たら、正月気分もほんのりしてきた。
調子にのって飲み食いしていたが、今日はこの後、母親と待ち合わせて和歌山駅前の大衆割烹『丸万』に行く約束があるので、名残惜しいがそろそろ潮時かなと、途中下車ひとり飲みは終了。
大阪・環状線新今宮駅から、紀州路快速に乗ればそのまま乗り換えなしに和歌山に着く。土曜日で、しかも年末だからか関空への旅行者もまじって混んでいたが、タイミングよく天王寺で目の前の席が空き座れた。酔っぱらって立ったままで和歌山まで行くのは、さすがにつらい。
大阪と比べると、和歌山駅は驚くほどひっそりとしていたが、ふるさとに帰るとホッとした。1年ぶりの母も相変わらず元気なのも嬉しく、ふたりで駅前の大衆割烹『丸万』にはいった。

↑どこにでもあるような駅前大衆酒場が、チェーン店蔓延の時代で絶滅危惧される存在にある。いつまでもがんばってほしい和歌山駅前大衆割烹『丸万』。

店のおやじさんも奥さんも古くからいる従業員のおばさんも、やさしく「おかえり」と言って向かえてくれる。そんな暖かい雰囲気の中で、ゆっくりと飲みはじめた。
明日が、日曜日だから無理して今日飲みに来たのだが、曜日関係なく年末30日までやっているそうで、おやじさんも元気でやる気も充分で安心した。(12月29日 飲)

↑自慢の料理は、どんどん勧めてくれる。「とろろ芋、好きだったよね」と、言われたらそれお願いと注文してしまう。粘り強く、だしの味の利いたシンプルなとろろが、旨いこと。

↑おなじみの名物「どて焼き」は、ねっちりもっちりの牛スジ肉が味噌にからまってたまりません。1本はいっているコンニャクも堂々と、美味しい。

↑造りの盛り合せは、鯛とイカ

↑たる酒は、升で出て来てすでに正月気分。

↑母が所望したカキフライ。新年の誕生日で八十歳になる母だが、ひとりでぺろりとフライを平らげるほど、元気でありがたい。

↑フライに対抗して、こちらは湯豆腐とは、なんだかなぁー。

↑生ずし(シメサバ)を、食べ忘れてはいけません。危うく、食べ逃すところだった。